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「お前、本当に酷い奴だな。マジで俺が何も思わずにお前を抱いてたとでも思ってたのか?」
「それ以外に何があるんだよ?」
「拓馬も言ったみたいだし、この際だから言わせて貰う。俺は出会った頃からずっとお前が好きだったぞ。友情とかのライクじゃない、愛してる方のラブだ」
「…………」
——ラブ……啓介がラブとか言った……。
「何だ、その胡散臭そうな顔は」
「いや、お前が言うと胡散臭さしかないだろ」
日本にいた時、周りにどれだけ女を侍らせていたのか知っているだけに、俄かにも信じ難い。
「俺の意思無視していつも好きなだけ人の結腸ガン掘りしまくる癖にか? お前がドSなのは知ってるけど、好きな奴にはもっと優しくするもんじゃねえの? 好きな奴出来た事ないから知らねえけど」
不満たらたらに言うと、啓介が喉を鳴らして笑った。
「お前イってる時に結腸ガン掘りされんの好きだろが。どれだけ気持ち良さそうに、ヒンヒン言いながらイった顔してるか分かってないのか? それにいつもヤッてる時の事を思い出せ。ここみたいにオメガの発情期もないのにあの頻度のあの回数で交われたのはどうしてだ? とか考えた事なかったのか? 一晩で二桁行くぞ。お前のはイク回数を数える方が大変だ」
「ちゃんとした発情期来た事ねえから知らねえよ。単に体の相性良かっただけだろ」
初めてこの体に入った時は発情期だったらしいがなんて事なかったし、発情期を抑える薬を飲んでも変わらなかった。それもあり発情期云々の話は分からない。
啓介との体の相性は抜群に良かった。何度抱かれても足りないくらいだった。
女抱いてても物足りなくて、帰りに啓介に抱かれに行くくらいには啓介とのセックスは良い。
「じゃあ聞くが、俺以外の男と寝たいと思った事は?」
ある訳がない。啓介の相手だけで精一杯だった。
毎回腰砕けにされるから他でやりたいとか思った事がない。それで回復したら、啓介とまたセックスしての繰り返しだった。
「ない。その前に勃たねえ。お前のポテンシャルについてくだけで精一杯で他に回す余力ねえよ」
「俺も同じだが? お前も大概だぞ。人の上で腰振りまくって奥に入れろって強請るくせに俺のせいだけにするな」
呆れ顔でため息を吐かれてしまい、啓介を見る。
——もういいやこの話は。話題変えよ。
「で、その話と俺が今縛られてるのと何の関係がある?」
「お前が拓馬んとこに帰るとか言わなければ外してやる」
——アホくさ。
戻らなければ困る事項があるから戻りたいのであって、彼氏を取られる取られないの低次元の話じゃない。
「この体の主との約束があるんだよ。行きたい場所がある。その為に、いま拓馬……カイルに魔法を教えて貰ってるから帰りたい。それにルドさんにも店の手伝いをすると約束している。食と宿を世話して貰ってるんだ。色恋沙汰の理屈だけじゃなくて、正当な理由があるからマジで帰してくれ。俺はこんなとこに縛られてる暇はないんだよ」
正直に話した方がいいと判断して口を開いた。その内容に啓介はちゃんと耳を傾けている。
「体の主と約束? どういう事だ?」
「日本で撃たれた時、声がしたんだ。助けてくれ。生きたいなら体をあげるから、母を助けてくれってな。んで、承諾したら俺は全裸で廃屋みたいな小屋にいた」
「声? 何で全裸?」
啓介の顔が引き攣る。また剣呑な空気が流れた気がした。
「ああ、こいつマワされた後だったんだよ。精液でドロッドロ。お前が脅していた子爵に客取らされて毎回同じ事をさせられてるのが分かった。それで絶望したんだろな……。体の主……レヴイは生まれてからの記憶ごと今も俺の中に眠っている。だから俺は初めこの肉体の名前すら知らなかった。でも約束したからにはコイツの母親助けなきゃだろ? だからマワしてたやつらをカイルと一緒に捕らえて口を割らせたんだよ。ルオンって街で働かされてるらしい。今はどうやってそこに行くか模索中だ」
説明している間中、啓介は気難しい表情をしていた。体の奥底で意識が眠っていると言った内容が気になるみたいだ。
「ルオンか……。あそこは良い噂はないぞ。今のお前は、行った所で鴨だろうな。とっ捕まって売られるのがオチだ。それでも行くなら俺が一緒に行ってやろうか?」
「あー、それなら助かるっ……て、え? マジで? 啓介て実は良いやつ?」
「おい……」
「それならもう一つ頼みがある! 俺を鍛えろ」
正面からマジマジと見つめられる。
「その体じゃ肉体的には無理だぞ。魔法の使い方なら少しはマシになるかもしれんが最低でも二週間は欲しい所だ」
「なら、その間はここにいる!」
「……」
すっかり毒気を抜かれた顔をしている啓介か何事かを思案するように、両手を組んで人差し指をトントンと自らの手を叩いていた。
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