極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている。

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「どうかしたのか、啓介? 何か引っかかるとこあったのか?」  考え事をする時の啓介のクセだ。もう何回もそれを見てきているのと、己と似たような癖だから分かる。 「引っかかる所だらけだ。まず、声で導かれたってのが気になる。もしかしてお前の転生体て、その体じゃなくて、別で存在しているんじゃないのか? 記憶を持っているだけの魂だけがその体に導かれたって事もあり得る。その体の主の〝レヴイ〟が体の奥底で寝ているってのがそもそもおかしい。転生てのは過去と現在に分かれて意識だけが分離したりはしない。本当の転生体なら現在の意識の中に過去が存在するだけだからな。現に拓馬はそうだったろ? お前のはどちらかと言えば、過去の記憶を持った魂だけの転移に近い」 「あー。それは考えてなかったわ。つか、もしそうだった場合、俺はどうなるんだ? 本当の体が見つかれば魂も統合出来るのか? これって能力も下手すりゃ無くなるな。今の能力結構便利なんだよな。まあ体があればの話だが。その転生体がない場合、俺はどうなるんだろな。消えるのか?」  再生能力が自分だけでなく他者にも物質にも使えるというのは、手離すには惜しい能力だった。  前世の時のように誰も失わずに済む。その前にまた自分が死ぬ可能性もあって、頭を悩ませる。 「もし体に戻れたとしてもお前はオメガになってるはずだから何らかの能力はあるだろう。それに子爵も言っていただろう? 治癒だけじゃなかったのか、と。もしかしたら治癒はレヴイが持っていて、再生能力は羽琉……オメガになったお前が持っている能力の可能性がある。治癒というレアな能力を持っていて売りに出されていたというのも理解し難い。この場合、使えないと判断される程に劣等だったと考えるべきだろな」 「そう言う事か。成程な。というか、オメガ? 何でだよ。アルファじゃねえのか?」 「俺たち龍人族には魔法の他に特殊能力があってな。元から決まった性別を変更するのは無理だが、無性だったとこに性別を与えることが出来る。俺に与えられた特殊能力はそれだ。だからお前にマーキングしてたと言っただろう?」  ——おのれ、余計な事をっ。  忌々しげに睨むと、啓介は逆に機嫌良さげに笑んでいた。 「諦めて俺の所に嫁げ」 「最近こんなんばっかかよ。何で男に求婚されてんだ俺。つか、よく考えてみればお前王様してるんならルオンまで一緒に行けねえだろ。龍人族てのは暇なのか? それに、どうやって行くかも決まってねえし、俺は金もないぞ」  ベッドにうつ伏せになって、拘束の解かれた四肢を脱力させる。やる気が失せた。 「まあ、暇だと言えば嘘になる。逆に嫁の願いも聞けない王など見限られると思うが? 俺には腹違いの兄や弟が五人はいるからな。代理を立てるなんて容易い。寧ろ王も代わって欲しいくらいだ。ルオンへの移動なら問題ない。俺がドラゴンになって飛べばいい。二十分もかからん内に着くぞ」 「…………ドラゴンっ、だと!?」  言われてみれば、カイルも龍人族はドラゴンになると言っていた。 「乗りたいだろ?」  ニヤリと笑みを浮かべられる。  素直に頷くと、ヨシヨシと頭を撫でられた。  それから二週間くらいは啓介に手合わせをしてもらっていた。  足を払われ、顔面に打ち込まれそうになった拳を風魔法で威力を殺して、水をスライム化させて受け止める。即座に飛んできた足に胴体を蹴られ、芝生の上に転がされた。  手加減無しで相手をしてくれるのは良いけれど、力の差がありすぎて片手で遊ばれている状態だ。  日本では大差ない動きだったのに、腹が立って仕方ない。 「まあ……初日よりはマシになったんじゃないか?」 「すっげえ、腹立つ。日本にいた時は大差なかったのに!」 「あれは龍人族としての力を封じられていたからな」 「は? マジで殺してやりたい」 「ほら、手合わせの分を体で返せ」 「その言い方やめろや」  身を屈めてきた啓介の首に腕を回して口付ける。  〝俺から口付ける事〟  魔法の使い方を教える代わりに啓介から提示された条件だ。  グイッと唇を拭うと頭を叩かれた。  もう約束の二週間目になっている。そろそろ行かなければいけない。心配をかけたくなくて、鍛えて貰うから二週間はここにいるとルドとカイルには伝えて貰っていた。その相手が啓介だという事は省いている。 「啓介、そろそろ行きたい」 「そうだな。準備も整ってきたし頃合いか」 「先にカイルとルドさんに挨拶してから行く。お前ちゃんと店壊した詫びの品用意しろよ」 「……」 「返事」 「…………」 「おい……啓介」 「ち、あーー……分かった」  物凄く嫌そうな顔で言われた。  いくら直したとは言え、店を真っ二つにしたのだ。その詫びは当然だろう。 「ドラゴンの姿で行くのか?」  少し期待を込めて見つめると、頭をグリグリと撫でられた。  テレビとかで見かける、数年ぶりに孫に会う祖父母みたいな手付きで撫で回される。馬鹿力で遠慮なくされると首が痛い。  ——俺の頭を捥ぐ気か! 「いや、他に荷物があるから飛行魔法で行く」 「俺のドラゴン……」  至極残念だ。  急に蹲ったまま膝に顔を埋めた啓介を見下ろす。  ——何でおっ勃ててんだコイツ。 「叩き折ろうか……?」 「止めろ」 「欲求不満か?」 「あーー、誰かさんにお預け食らってばかりだからな」 「そりゃこの体が俺の体って確定するまでは無理だろ」  気怠げに言うと、ニヤリと笑みを浮かべられる。 「また抱かれても良いと思えるようになったか」 「否定はしない。けど、お前に抱かれるならカイルにも抱かれるぞ。不公平だからな。何だかんだ言ってお前とは相性良いから抜きたくなったら頼らんでもない。それ、ツラいなら手か口で抜いてやろうか?」  言った瞬間、中庭にいたのに部屋の中にいた。「え」と思っている間もなく、チャポンと音を立てて空気中に水が浮かぶ。手を洗えという事らしい。
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