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体を見渡す。腰も足もそこらの女より細くてきめが細かい。
股付近に視線を向ける。
生えてるのは生えてるが、毛色が薄いので、光加減次第では生えているのかどうかも怪しく見えるだろうなと考えた。恐らくは見えなくなる。
手で頭に触れた。髪の毛はボサボサで、手櫛も通らない程に強付いている。毛髪の質だけは前の体の方が良さそうだった。
「あー、でもコイツこんな所で犯されてたんならボサボサでもしょうがないかもな」
視認できる範囲内でもゴミや埃が酷いからだ。
とりあえず指を突っ込んで中の精液をかきだした。
何度も同じ動作を繰り返すが、一向になくなる気配がない。
「あ……?」
——どんだけ出されたんだよ、コイツ。
微妙にイラッとした。
一人で出したとは思えない量が体内から出てきて眉間に皺を寄せる。出しても出してもキリがない。
出なくなるまでひたすら出しながら逡巡した。
——これ、五人以上にはマワされて何回も出された量はあるな。
「なるほどなぁ……」
手首を切ったのは犯されたのが原因で間違いはないのだろう。
——この特異体質のせいで死にきれないってわけか。
恐らく日常茶飯事的にこの人数から無理やり犯されていて、とうとう精神を保っていられなくなり体の交換という救いを求めた。
いや、魂の入れ替えだ。それに応えたのが羽琉だった。
元々羽琉の転生先の肉体だったのかもしれない。
それが何やかの力が働いたのが理由で、人格とも言える魂だけが入れ替わってしまった。
声の主は今もこの体の中で深く沈み込んでいるのが、微かに感じ取れる。
解離性同一性障害てこんな感じなのか、と呑気に考える。
——おーい。お前大丈夫か?
問いかけても出てくる気配もその意思も感じ取れない。
体の主は存在していた筈の記憶ごと抱え込んで、完全に沈み込んだまま鉄壁の牢の中に一人蹲っている。
——なあ、アンタ。もう出て来ねえのか? この体本当に俺が動かして良いのか? つうか、さっき話してた母親ってどこに居るんだよ?
助けると約束した。
虚空に問いかけても応えはない。
ふと転生前の事を思い出す。
——組、どうなっちまったんかな。
不知火会は極道ではあるが、今の組長に代わってからは真っ当な道に進み始めていた。
薬物には手を出さずに商業運営で利益を上げている。
その心意気に羽琉は惹かれた。
学生の頃から己を慕っていた拓馬もついてきて、拓馬もちゃんと実力でのし上がった。
「中に出したまま放置とか……はあ……何か啓介とヤってた時みたいだな」
何回イッても萎えない絶倫男であり、悪友でもある。
全身倦怠感と、腰の奥の痛み、自分で処理する何とも言えないやるせ無さ。
悪友である須藤啓介とは昔から体だけの関係を築いていた。
好きという甘い感情ではない。
お互い酔った勢いで興味本位のまま寝てしまってからは、お互い気が向いた時に性欲を発散するようになった。体の相性が良過ぎたのが悪い。
でも合意だ。この体の主とは違う。
「どこに行けば良いんだ? とりあえず憂さ晴らしにこの体犯したヤツら全員ボコるか…………つうか何処よ此処」
それどころかこの体の主……今の自分の名前すら知らない。
別人として生まれ変わって早々途方に暮れてしまった。
——拓馬、無事だったんだろな。
自分にトドメを刺すように放たれた二発目の銃弾から庇ってくれた舎弟の事が気掛かりだ。
あの場には悪友である啓介もいたが、あの男は昔から悪運だけは強いから大丈夫だろう。
目を見開いて珍しく焦っていた様子を思い出す。
落ちていた服らしき物に手を伸ばして取るも、破かれていて着れそうになかった。
——このままマッパで出歩いたら間違いなく職質コースだな。
服の代わりになりそうなものを探したが何もなかった。
「マジか……どうしろと?」
早々に詰んだ。
破かれて使い物にならない服を握りしめていると服が発光し始め、破れる前だったかもしれない状態まで戻った。
「っ!」
流石に驚きを隠せない。
治癒能力だとばかり思っていたのだが違う。
治癒は体の傷を癒したりするだけだ。肉体のみならず物質まで形状記憶や修繕、修復、構築出来るとなると、これは治癒どころじゃない。もっと高度な能力かも知れない。
魔法やファンタジーの知識がなくとも一目で理解出来た。
試しに小屋に手を当ててみる。ミシミシと音を立てて、全てが新品のように戻っていき、割れていた窓や扉まで綺麗にはまっている。
——すげえ。これって、再生……か?
腑に落ちた。
何はともあれ助かったのは本当だ。服に袖を通していく。
——変な服だな。もしかして此処日本じゃないのか?
どこかの民族衣装のような服に違和感を覚えながらも、真っ裸でいるよりは幾分かマシなので着といた。
「腹減った。ラーメン食いてえー」
毎日食べていても飽きない食は白米とラーメンくらいだ。
小屋は綺麗に直っても食料が補充される事はなかった。
あったとしても調理は出来ないから食料が無駄になるだけだけれど。
試しにログハウスタイプの掘っ立て小屋を出ると、獣が徘徊するような息遣いが聞こえてきて直ぐに小屋の中に戻った。
辺りに灯りは見えない。という事はここは森の中である可能性が高い。下手に動くのは得策ではない。
「このまま出たら俺の方がやつらの晩飯になりそうだな」
武器も何も持っていない状態で、野生の獣を相手するのはあまりにも無謀すぎる。それに狂犬病などを移されるのも厄介だ。
この能力が菌やウイルス等も無効にするか試してないからだ。
これでうっかり死んでしまっては、こうして生き返った意味がない。
小屋を出るのは夜が明けてからにしようと決めた。
この体に備わっている能力のおかげで、マワされた時の体の負担や疲れまで取れているから有難い。
寝台の上に真新しくなったマットとシーツを敷いて、思考を巡らす。
——とりあえず此処は俺の避難所にしよ。
部屋の中を探し回って鍵を見つけると、ズボンのポケットにしまった。
これからどうするべきか……それに此処は日本のどこら辺なのかと考えているうちに寝てしまっていた。
寝付きの良さは昔からピカイチだった。
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