極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている。

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 ——という事はコイツ死んだのか。マジかよ。  拓馬に抱きしめられる前に蹴り飛ばしたが、足はそのまま握り込まれた。  太ももに昨夜の残滓が伝い落ちてきている。気持ち悪くて仕方ない。 「あー。また出てきたか。おい、離せ。拓馬」 「兄貴……何でそんなとこに精子なんてつけてんすか?」  拓馬の声音がワントーン下がった。 「あー。この体をくれた主……。まあ、多分俺の生まれ変わりみたいなのかもしれん。そいつマワされてたみたいでな、昨日気がついたら全身精液塗れだった。中のは全部出したつもりだったんだが、まだ残ってたみたいだわ」  そうだ。色々調べたい事が多すぎて何から手をつけていいのか悩む。  逡巡していると何か勘違いしたのか、拓馬が指の骨を鳴らし始めた。  ——何でコイツ抗争行く時みたいな顔してんだ? 「おれ殺る事出来たんでちょっと待ってて下さいっす」 「は? 何処行くんだ?」 「兄貴をマワした奴らにお礼参りしてくるっす」  物凄く良い顔で言われ、ため息をついた。 「それは自分でやるからいい。とりあえず、その内の一人はお前に会う前に制裁を加えたから大丈夫だ。右手の拳の骨もイっちまうくらいに殴ったから、あの男は鼻でも折れてんだろ。中に入ってた精液の量からして、あと四~五人くらいはいるぞ。この体は山の中の掘立て小屋に放置されてた」  そう言うと拓馬の顔が引き攣った。 「前世の兄貴だったらアルファだったと思うんすけど、この体だと多分オメガじゃないすかね? それだったらめちゃくちゃマズイんで、今すぐ病院に行きましょう」  言われてみれば先程もオメガがどうとか発情期がどうとか男が言っていたのを思い出す。  耳馴染みのない言葉だったので聞き流していた。 「そういえばさっきの奴も似たような事言ってたな。どういう意味だ?」  男には聞こうとは思わなかったが拓馬は別だ。  拓馬の事は前世で日本に居た時から信用しているし、信頼にも値する男だ。普段は駄犬でしかないがやる時はやる男である。  組にも必要不可欠な人物だった。だからこそ死ぬ間際にも庇った。  結局は拓馬も死んでしまったようだけれど。 「ここの世界には、バース性って呼ばれているもう一つの性別があるんすよ。一般的な性別がベータって言って、能力も何もかもが普通の人間で庶民す。おれもベータっすよ。その他にはアルファってのがいます。全てを統べる奴ら……ここでは主に亜人と呼ばれる龍人族や王族、貴族がそうっすね、そしてもう一つがオメガ。オメガは容姿も体付きも両性的でちょっとした特殊能力を有しています。見目は良いんですけど力とか弱いんで、農民たちの間ではまともに仕事が出来ないって冷遇される事も多いんす。しかもその特殊能力の種類によっては闇市場……オークションすね。そこで高額で取引されたりします。後、オメガの男は女と同じように子宮があって子を孕むんすよ。兄貴の転生後のその体がマワされたってのなら、ちゃんと洗浄してもらって妊娠しないように日本でいうアフターピルみたいな薬を処方をして貰った方がいいっす。因みにこの世界でのここの国名はレザイル国。ここは国の最南端に位置しているモンスアローていう小さな村っす。龍人の国は隣国なんすけど、ここが最南端なので近所みたいなもんすね。アイツらには近づいちゃダメっすよ!」  ここの世界は己が思っていた以上に厄介な世界だというのが分かった。  レザイル国の最南端、龍人族か。  顎に手をやって俯く。  ——それにしても男が妊娠? 冗談だろ……。  頭が痛くなって来る。だとすればもしかしたらもう既に手遅れかもしれない。  レヴイは絶望していた。  殴り飛ばした男の話を聞く限りでも輪姦は一度や二度じゃない。  戻って男を捕らえて拷問にでもかけるか? と考えたがやめた。  本人から、復讐はどうでもいいと言われたのを思い出したからだ。 「手遅れかもしれん。少なくてもレヴイはこういう扱いを何度も経験している節がある。今は発情期? というやつらしいな。さっきのした男が言ってた。まあ、一度診せに行くか」 「発情期ならそれを抑える薬も貰いに行きましょう。その発情期になるとオメガは特殊なフェロモンを出すんですけど、おれらベータには何ともないけどアルファを引き寄せて性的欲求を煽るんすよ。それでトチ狂ったアルファがオメガを犯す事件が多いっす。やっぱりその犯人らをそこの湖に沈めに行きましょうよ……」  眼光だけで人を殺めそうな表情で拓馬が言った。 「そうしたいとこだが、その前に色々調べておきたい事と、この体の主との約束があるから後回しだ。試しておきたい事もあるしな」  目が覚めて早々忙しい。  この世界の事や、己自身の事、レヴイの母親の事……どれから優先しようか悩む。 「ていうか、兄貴は転生してきてこの世界の記憶はないんすか? まあ、おれはさっき屋根から落ちたショックで極道だった前世の記憶が戻ったんすけどね。それにこの村で兄貴を見かけた事ないっすよ。こんなモロタイプな子がいたら、声掛けてるっす。何処からか拉致られて来たんじゃないっすか?」  拓馬の言葉を聞いて、その線が濃厚だと気が付いた。  それならやはり犯人たちを捕まえて、どこからレヴイを連れて来たのか吐かせる必要がある。 「俺にはこの体での記憶は一切ない。アイツは記憶ごと俺の中に閉じこもっちまったみたいで、呼びかけても出てこねえんだよ。だからその第二の性別についても知らなかった。さっき制裁を加えた奴がコイツの事をレヴイと呼んでいたから名前は知ってるけどな。コイツがこの村の住人じゃねんなら犯人らをとっ捕まえるしかねえかな。ああ、でもコイツの特殊能力が何かは知っているぞ」  見てろ、と道標として木の枝とは別に拾っていた錆びた釘で服の上から傷をつける。服ごと再生したのを見て、拓馬は目を見張った。 「兄貴……ヤバいっすその能力。治癒だけでも高額取引されるってのに、それ以上の再生能力持ちとなると、取引額が日本円で軽く五十億は超えるっすよ。ここでは円ではなく、リルって通貨ですけど」 「なんかお前が賢く見えるからびっくりだわ」 「酷いっす……」  ショボンと項垂れる様は、耳と尻尾を垂れた大型犬みたいだった。  しかし、間違いなく……限りなく駄犬である。 「こんなとこでこのまま話し込むのも何だし、一先ずは病院に行って、おれの家に行かないっすか? そこで色々話しましょう」 「そうだな」  拓馬に連れられてその場を後にした。
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