極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている。

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 朝起きてカイルを叩き起こすなり朝食を作らせて、一緒に店の掃除を始めた。 「うわー、組長効果すげえっすね……」  カイルは半分うとうとしながら窓枠を拭いている。たまに木の角に額をぶつけて悶絶してるけど……。 「さっさと手を動かせ。ルドさんが起きる前に済ませちまうぞ」 「へいへい」  窓拭き、モップ掛けと何もかも終わらせて一息ついているとルドが起きてきた。  何処もかしこもピカピカに磨き上げられた店内を見て、驚きに目を見開いている。 「お前ら二人でやったのか。あのカイルがねー……。合格点以上の出来映えだ。正直驚いた」  ルドに褒められたのが嬉しくて表情を崩すと、カイルも笑う。 「マジで組長効果すげえっす……、うぐっ」  ルドから見えないように後ろに振り上げた踵でカイルの脛を蹴った。 「これから毎日やります! ちょっと出掛けてきますね」 「ああ。気をつけろ……って、ちょっと待て」  レジから取って来た紙幣のような物を手に握らされる。 「これで必要な分の服を買うといい」 「へ? 良いんですか? ありがとうございます!」  ルドを見るなり背筋を伸ばして立ち上がって一礼し、鼻歌混じりにカイルの首根っこを引っ掴んで店の外に出た。 「これなんかどうっすか?」  下着を手に取り、腰あたりで合わせられた。  店員がこっそりと「女性用です」と教えてくれたので、カイルをマジ殴りする。 「態とじゃないっすよ。マジで間違えたんす」  はいはい、と返事しながら先に歩いていく。その後を追っかけてくるカイルを見て店員たちが微笑ましく見ていた。 「カイル、買い物終わったら魔法の使い方を教えろ」 「はいっす~」  普通の服も必要な分だけを買い、店の外に出る。遠くで馬車が走っているのが見えて、思わず観察してしまった。  ——移動方法は馬車か……。乗った事ねえな。  機会があれば乗ってみたい。何せ見るのも初めてなのだ。気にならない訳がない。  視界に入る範囲じゃなくなったので視線を正面に戻すと、少し前に鼻をへし折ってやった男が路地裏から出てくるのが見えた。 「あ」  相手も気が付いたらしく、こっちを見つめている。男たちは合計七人。今日は数で有利だと思っているのかやけに強気な表情を浮かべ始めた。  もし〝羽琉〟だった頃の体なら余裕で地に沈められたが、今の体では再生能力があっても再生が追いつかないだろう。舌打ちする。 「レヴイ! てめ、なんで森から出て来てんだよ! こっちはちゃんと金払って……」  いつの間に追いついたのか、瞬きする間もなくカイルが動いた瞬間、男が吹っ飛んだ。  ——相変わらず反射神経抜群だな、コイツ。俺もまたああいう体に生まれたかったな……。  前世では身長も同じだったのに、と項垂れる。羨ましい限りである。 「てめえら誰に気安く触ってんだ、あ゛あ゛?」  男のセリフで状況を把握したのか、カイルが今にも誰かを刺しそうな顔で言った。  瞳孔まで開いてるんじゃないかと疑いたいくらいには目を見開いている。  ——あ……キレてるわコイツ。  男たちに『ご愁傷様』と心の中で合掌する。前世で羽琉だった時にも肩がぶつかった輩が無事で済んだ事等皆無だからだ。誰が許そうとカイルが許さない。 「ひっ、ごめんなさいぃいい」 「ごめんなさいで済んだらなぁ、極道いらねんだよ!!」  逃げ出そうとしている男たちを引っ掴み、地に投げている。  ——いや、この世界には極道いねえだろ。ていうかキレると豹変するのも相変わらずだな。  でも助かった。一人で来ていたらまた拉致られていたとこだ。 「待てカイル。探す手間省けたわ。てめえらちょっと話聞かせろ。カイル、こいつら纏めて連れて来れるか?」 「余裕っす」  カイルに魔法で浮かせられた男たちと一緒に、人のいない原っぱに移動した。 「で、お前ら誰だ?」 「はあ? リレロ子爵からお前を買ったの覚えてないのか?」 「全く」  首を振る。その前に覚えたくもない。極道しててもゲスは嫌いである。 「おい、口の聞き方に気をつけろ。質問にもちゃんと答えろ。じゃねえとしめんぞ」  即行でカイルの裏拳を食らって、また一人気絶してしまった。 「カイル、話が進まないから殴るのは後にしろ」 「はいっす!」  お手をする勢いで顔を輝かせ、カイルの尻尾が振り回される。この変わり身の早さも健在だった。  これはこれで可愛いから頭を撫でてやる。 「俺は何処にいる誰だ?」 「そこまで聞かされてない……です。オレらは子爵からそういう遊びの話が回って来た時に、選んで買うだけですので」  ——話が回ってくる? 「その中に俺がいたと?」 「そうです! 今回はレヴイさんを含めて三人くらいいました!」  殴られるんじゃないかとビクビクしながらカイルの顔色を窺っている男からは嘘は見受けられなかった。 「で、お前は? 何か知ってたら正直に話せ」 「はっ、はい! でもこれ以上の事は何もっ」 「なら質問を変えようか。お前は前に俺が殴る直前、尻軽は親譲りだと言っていたな。どういう意味だ? その母親は何処にいる?」  男の体がビクッと震えた。 「あ、あの……それは……」  カイルが殴ろうとしているのが腕の筋の動きで分かり「カイル!」と声に出して先に止める。 「早くしろ。うちの犬は凶暴でな。止められなくなっても知らねえぞ」  真正面から見据える。  こちらが嘘を言っていないのが伝わったのか、男たちは酷く怯えた表情をしていた。 「る、ルオンって街にある店で、売りをしていると……聞いたことがあります」 「誰に?」 「ち、父ですっ」  ——父、なあ。 「お前の父親は何処のどいつだ?」 「え、と……それは……」 「今話すなら特別にお前だけはこのまま許してやる。でも話さなかったり嘘だったりしたら、後で調べて家まで直接行くぞ。簀巻きにされてどっかの湖に浮かびたくはないだろ?」  ゾッとする程の笑みを浮かべた。 「話します! うちの親はこの村の町長をしてます! リレロ子爵とは昔っから仲が良いんです!」 「成程な。約束通りお前だけこのまま逃してやる。その父親とやらに俺が記憶喪失になっていて町で働いていると吹聴しろ。しなかったら、——分かってんだろな?」  一度言葉を切って眉間に皺を寄せる。声のトーンも落として、真顔で言った。 「は、はいいい!! 必ず言います!」  ——黒幕を誘き出す。  一人逃して残りの奴らはその場に正座で待機させていたのだが、魔法を使う練習の時に地面に穴が開いてしまったので、首から上だけ出して土の中に埋めてやった。  魔法練習で失敗した穴が役にたって良かった。  火属性の魔法練習をしているとたまに火の玉が男たちの頭に落ちたり、不発弾が顔の前で弾けたりするから、水魔法で中和する。  今度はその横でカイルと風魔法を使う練習をやっていると、三時間くらいは経過していて、それから奴らを出した。すっかり忘れていたとは言わない。  ——あれ? コイツらこんな髪型だったか?  一応治癒魔法をかけて解放した。  パンチパーマのまま大人しくなった男たちは、揃いも揃って脂汗をたっぷりとかきながら顔を青くさせている。  ペコペコと頭を下げて、脱兎の如く走り去って行った。
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