勇者召喚!……ただし俺じゃない

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勇者召喚!……ただし俺じゃない

――――勇者召喚と聞くと、今の時代はだいたいじゃない方だろう。もちろん俺もじゃない方なのだが、今、痛烈に困っている。 (何だ、ここは!どこの組だ!いやこの西洋風の内装……さてはシチリアか……っ!) いやどー見ても異世界召喚だろうがっ!あと、全然イタリアっぽくないから!明らかななんちゃってヨーロッパじゃんっ!! いきなりちょっと危なそうなお家がらのご子息の脳内実況から始まったのだが、ここはまごうことなき異世界召喚。 さっき脳内実況したのは、黒地に白いメッシュが入っている、特徴ある髪の俺の友だち。六反田(ろくたんだ)スバルである。五反田じゃないんだ、何故か六反田なんだ。 そして目の前の何か偉そうなおじいさんがスバルを勇者さまと呼んだから多分そうなのだろう。 さらには……。 「こちらが聖女さまです、王太子殿下」 いかにもな金髪碧眼の美青年におじいさんが告げる。あのひと王太子殿下なんだ。そしておじいさんの隣にいる子は……桃色の髪にライトグリーンの瞳の同い年くらいの女の子である。あの子は格好的に聖職者ぽいな。 そして一方一緒に召喚されたらしい聖女さまは……色素の薄い髪と瞳のものっそい美少女である。 そして顔のいいスバルにほわわっと口を開けながら頬を赤らめている。 しかしだからと言って見た目に引きずられるのは性急である。何たってスバルは……。 (くそ……っ、金属バットかせめてチャカでもあれば、この場を切り抜けられるに違いないのに!) いや、待て待て。百歩譲って金属バットはよしとしよう。いや、推奨はしないけどもスバルは金属バット素手でひしゃげるほど強いからそもそもいらないと思うんだが。 異世界ならではの剣などの武器や魔法の前では得物くらいあったほうがいいだろうか?しかし待ってくれ。そもそもスバル、お前チャカ扱えんの?え?そう言うもんなの?お前のちょっとイケない実家って……っ!いやありそうだけど俺たち高校生よ!? (もしくは……バールでもいい……っ!) まぁ、バールくらいなら異世界でも手に入るかもしれないが。チャカよりはましかもしれないが……凶器には代わりないだろうがっ! (とっととアイツらをシメて、イッくんとこの場を切り抜けなくては……っ!) そのイッくんと言うのは俺のことである。本名獅道(しどう)イツキ。しかし……シメるのは違うんじゃないかなぁ……? 「あの、すば……」 スバルに声を掛けようとした時だった。 「あなた、誰」 美少女聖女が俺を睨み付ける。うわ、美少女の睨みって結構グサッとくるなぁ。あからさまと言うか何と言うか。 (イッくんにメンチ切りだとこのアバズレがぁっ!!この六反田スバルが相手になってやろうかぁ?アァン゛ッ!?) やっば。心の中でめちゃくちゃケンカ売ってんだけど。一応スバルはケンカっ早くはない。ある程度の節度は保っているのだが。そうかぁ……イケメン能面顔の裏ではめちゃくちゃケンカ売ってたかぁ……。 ――――と言うか何でさっきからスバルの心の声が聞こえるんだよ。日本ではそんな特殊能力なかったぞ……?俺。 「あの……勇者さまなんですよね……!私その、聖女みたいで……!私、白桜院セイナって言います!勇者さまのお名前も……その、聞きたいな……?」 へぇ……いかにも聖なる名前って感じ。名前で選ばれたわけではないだろうけど。 スバルが無表情だからかぐいぐいくるなぁ……?高校ではスバルが無表情なだけで周りの不良はびびっていたのだが。 そしてメンチ切りしているスバルはと言うと……。 (何だこのだらしのない女は……!何故ないおっぱいを寄せている!!) そこかよ!まぁ確かにスバルのお母さんはクールでカッコいい系である。ギャルはイケても清楚系相手にするとはて……?となっちゃう子だけども!でもクラスの委員長のようで色仕掛け込みなセイナに完全に頭がパニクっている……!あと本人に直接ないおっぱいを寄せているとか言わないでよね!?確実に修羅場だわっ!! 「あ、あの……」 仕方がない。今はスバルの子分もいないわけだし、ここは俺が……。 「モブは黙ってなさいよ」 モブ扱いかよ。うん、確かに平凡な顔立ちで能力も平均値よりちょっと低い。何でそんな俺がスバルと友だちやってるのかは不思議だろうが、スバルの実家のことを知って離れるのも、友だちとしてないかもと思ったのだ。そもそも俺、弟のこともあってスバルしか友だちいないし。 (イッくんの話を遮るだなどと許しがたし!ここにドスならある……!) いやお前……持ってきてるんじゃないかとも思ったけども、お前ドス学校に持ってきてたのかよ!?俺たちは学校にいる時に召喚されたのだ。 しかしスバルがドスをくりだそうとブレザーの中に手を突っ込もうとした時だった。 「待ちたまえ、君たち。積もる話もあるだろうが」 その時、王太子殿下がこちらにやって来る。相変わらずキラキライケメンだなぁ。 でも彼女と積もる話はないかなぁ……? (く……っ。恐らくこの男はこの組織のインテリ系若頭。最近の映画やアニメでは容姿の整ったインテリ系若頭も流行っているからな。違いない) いや、まぁ王太子殿下だし、若頭的な立ち位置かもしれない。間違ってはいない……んだろうな?だけどそれは多分ジャンルの違う映画やアニメの話ぃっ!!ここ、その筋の世界じゃなくて異世界ファンタジー!! 「まずはこの世界の説明を。今回君たちを召喚したのは……」 魔王を倒すためとか言わないよな?でもそれがテンプレだし……。 「ただの定例行事だ」 ただの定例行事で元世界から誘拐されたの!?俺たち! (定例行事……つまりは……集会か……!) 絶対ソレ違う集会っ!!コワイひとたくさん集まる集会!! 「すまぬな。昔ならば魔王の脅威などもあったのだが、今は平和そのもの。さしたるいさかいもないものの、この定例召喚は世界の理、止められるものではない」 いや、止めてよ、脅威がないのなら。 女神さまとか、この世界の何か偉い神さま。 (ケンカが……ない……っ、だと……っ!?それでどうやって生きて行けばいい!) 平和なら平和でいいんじゃないのかな?スロライしちゃえばいいんじゃないのかな?むしろスロライしようよ抗争とか恐いじゃん! 「だが、召喚してしまった以上は君たちの面倒は見よう。ええと……今回の召喚者は勇者と聖女……」 「はいはい!私です!王子さまぁっ!」 セイナが腕ごと手を挙げて、熱の籠った目で王太子殿下を見つめる。 おいおい、あからさまな誘惑に、桃色の髪の子が呪いの藁人形みたいなの懐から出したぞ!?てか、何あれ!呪い!?でも、もしかしたらこの世界では女の子用のお人形さんなのかもおおぉっ!!? そしてセイナはセイナで……さっきまでうちのスバルに熱上げてませんでしたかね?鞍替えするの早すぎない?むしろ……二刀流……? 「まだ王太子殿下が話していらっしゃる、娘、下がりなさい」 そう告げたのは騎士っぽいおじさんだ。 異世界召喚されて聖女と言うと、もっと聖女さま聖女さますると思いきや、わりとドライだ。平和そのものだからかな……? 「なによ!邪魔しないでよおっさん!」 「なぁ……っ」 いやまぁそれは真実だが、失礼じゃないのかな……? (何だあの貧しい乳の女は!あの見るからに歴戦のデカに向かい……おっさんとは……!) そうだね、スバル。歴戦って分かるんだすごいね。まぁ、正義系の騎士っぽいから間違ってはいないんだろうけど。でも貧しい乳って言い方やめようか。 ……しかし不動の騎士に対し、話が通じないと思ったのか、セイナはぷいっと顔を背ける。 そして王太子殿下が続ける。 「それから彼は……どうだろうか。神官長」 どうやら勇者召喚を告げた偉そうなおじいさんは神官長らしい。 「彼は……ふむ……ジョブはモブ……ですな」 モブってジョブなん? 「あははははっ」 他人のジョブを笑うなセイナ。聖女なのに品性の欠片もないのはアリなのか? 「まさか本当にモブ!モブに相応しいジョブだわ……!」 「何故笑うのか、私には理解できないが」 お、王太子殿下……っ!あんた、モブにも優しいとか絶対このひといいキャラだよ……! (コイツ……なかなかにできた若頭だぜ……きっと子分たちからの信頼も厚いと見た……!) まぁ慕われているとは思うよ……?めっちゃいいひとみたいだし、王太子殿下だしさ。でもそろそろ若頭から離れない?スバルくん。 王太子殿下=若頭じゃないから。 一方で勢いの止まないセイナは続ける。 「だ、だって……モブなんて何の役にもたたないじゃないですか……!ただそこにあるだけ!何の役にも立たない!」 悪かったな、役にも立たなくて!でも一応人一倍学校の平和と秩序には貢献したと思いますけど!? うちのスバルくんの暴走止めたと思いますけど!? (イッくんが何の役にも立たないだと……っ!?ダチをバカにするヤツは……このドスで……っ) やめなさい、やめなさい。スバルが再び懐に手を突っ込むのを手でペシッと叩いて止めれば、スバルが仔犬のような目で『くぅ~~ん』と訴えてくる。鳴いてもダメです、お母さん許しませんよ?いや、お母さんじゃありませんけど!? まぁ、つまりはこう言うことである。彼女は俺たちの高校にはいなかったから、知りもしないだろうけど。いたら確実に目立つし知ってるよなぁ……? 「君たちの世界ではそうかもしれないが、他者のジョブをバカにするなど品性の欠片も感じられないな」 王太子殿下めちゃくちゃまとも――――っ!ハズレジョブだとしても差別せず、追放したりせず、追放からの成り上がりファンタジーもスタートしないだなんて……っ! でも大丈夫だろうか。よくあるテンプレのダメ王太子じゃなかった。だけど誰かに嵌められたり騙されたりチャームでろう絡させられるのもテンプレだ。 王太子の身は大丈夫なのか!?むしろいいひとすぎて心配になるわぁっ!! 「そんな……でも、王子さまぁ……っ」 その時、突如甘えるような声を出し始めたセイナの目が、怪しく光った。 え、何あれ!?まさか本当にチャームとか!?魅了でこのとっても親切でまともな王太子殿下を操ろうとしてる……っ!? 「……っ」 王太子殿下が硬直し、騎士が何事かとセイナに詰め寄る。 「おい、小娘!何を……っ」 「おっさんはいらないのよ、黙ってて」 「……っ」 騎士まで固まってしまう!これは本気でヤバいぞ!? 「そこの神官長だっけ?あんたもいらないわ。邪魔しないで」 神官長まで!? 「おい、すば……っ」 スバルにヤバいと伝えようとすれば。 「モブは黙っていなさいよ!」 何だ……これ……っ!?何かが俺の中でぐるぐるして、気持ち悪い、動けない……っ! 「あ、勇者さまは遠慮しないで、私のことセイナって呼んでくださぁい」 セイナがウィンクをしてスバルに声を掛ければ。 (あ゛ぁ゛……?) スバルめちゃくちゃ嫌がってるぅ……。そもそもスバルの好みとはかけはなれてるんだよなぁ。むしろ真逆と言ってもいい。そしてさすがにスバルは勇者だからか……セイナの魅了は通じていないらしいが……。騎士と神官長で自信を得たらしいセイナはスバルにも魅了が聞いたのだと判断し、王太子殿下に向かい合う。 「さぁ、王子さまっ!邪魔なモブはとっとと城から追い出して……、私と……っ」 「……っ」 セイナの言葉に抵抗しようとしているのか、王太子殿下の顔がこわばるが、セイナも王太子殿下を攻略しようと一歩も引かない……っ! そして極めつけに王太子殿下の胸元に手を触れようとした時だった。 「気持ち悪い媚び売ってんじゃ、ないわよ!!」 「ひぎゃっ」 あ、桃色の髪の子が、セイナの頬を張り手でぶっ飛ばした……!セイナのチャームは同じ女性の彼女には効いてないんだ……!
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