大人になる洗礼

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 力尽きている中心を手に収める。相手に考える隙を与えず口に含む。チロチロと舌の先で鈴口を刺激すれば、萎えていたそこはみるみるうちに芯を獲得していった。 「さすがお若いだけありますね」 「と、年寄りくさい」 「あなた方人間からすれば、私は年寄りですよ」 「あっ!」  カリの部分を舌で引っ掛けると、ローシュ自身が腹につくほど反り上がった。 「年寄り相手ですが、すぐに固くなってくれて安心しました」 「……っおまえの舌が熱いからだ」  まったく反応を示さなかったらどうしようかと心配だった。少なくとも刺激を与えれば応えてくれる感度の良さはあるようだ。ホッとした。 「初めての相手が私で不本意でしょうが、私も仕事なのです。我慢してください」  再びローシュの中心を口内に迎え入れる。喉奥までしまい入れたそれを、頭を上下に動かすことで刺激していく。 「……っしご、と?」  刺激に耐えながら、ローシュが小声で漏らす。エアルはローシュから口を離し、 「ええ。王族に生まれた男児に、こうやって性技をお教えするんです。あなたの父上もおじい様も……そのまたおじい様にも、私がこうして夜の手ほどきをして参りました」  と言いつつ、自身の唾液を潤滑液にして、ローシュの固くなった芯を手で滑らせながら扱いた。  中心は固さを保ったままだったが、ローシュの表情が瞬く間に曇りだす。一本の糸で繋がれた感情が、今にも切れて溢れ出しそうに歪む。泣いてしまいそうに見えたが、ローシュの口から出たのは「離せ」という拒絶の言葉。低い声が不機嫌さを物語っていた。 「怒っておられるのですか?」 「怒ってない」  と言いつつ、眉間に寄せた皺は不機嫌そのものだ。何がローシュの気に障ったか知らないが、これ以上へそを曲げられる前に事を済ませたい。その方がお互いのためだ。  エアルは「三つ」と口に乗せて、自身の肩からローブを滑らせた。 「行為中に拒絶の言葉はお出しにならないでください。いくらお互いに気持ちの伴っていない相手でも、拒絶されれば多少は傷つきます。気持ちが通った相手と交わるなら、尚の事です」  教えを説きながら、ローブを脱ぎ捨てる。エアルは下半身に穿いた下着の紐に指を通した。元々緊張したローシュがすぐに脱がせられるように緩く留めた紐だが、ローシュにこの紐さえも解くのはまだ早そうだ。  エアルの手に掛かれば、下着の紐はあっという間に解けた。  自ら小ぶりな下半身を露呈させると、ローシュの目がエアルの下半身へと移動する。喉仏が嚥下する動きを、エアルは見逃さなかった。  そそり立った男芯を手で垂直に支える。脚を広げつつ男の下半身に跨り、先端をほぐした自身の後ろの秘部にあてがった。 「こんなことはローシュ様が果てればすぐに終わります。終わるまで……目でも閉じながら、好いた女の顔でも思い浮かべておいてください」  先ほど廊下で話したことが本心なら、もしかしたらローシュには心に決めた相手がいるのかもしれない、とエアルは思った。  この城には公務で年ごろの王女たちが諸外国からやって来るし、王族の遠縁の親戚にあたる貴族の娘もよく出入りしている。使用人に関しても、ローシュと同じ年幅の侍女なんてあきれるほどいるのだ。そのうちの誰かと密かに恋仲になっていても不思議ではない。  だとしたら、初めての相手が自分でさぞかし残念に思っただろう。だが、これも王族に生まれたが故の運命だ。受け入れてもらうしかない。  エアルは目元に力を入れ、グッと下半身を落とした。香油と指でほぐされた秘部は、ローシュの中心をゆっくりと飲み込んでいく。  見た目ではわからなかったが、ローシュのそこはエアルに充分な圧迫感を覚えさせた。男のものを受け入れることに慣れ切ったエアルの中でさえ、内臓を押し上げられる力強さが息苦しかった。 「んっ……ふ……くっ、う」  息を吐いて、ほぼ無理やり根元まで押し込む。馴染むまでは動かない方がいいだろう。エアルはローシュの胸に手を置き、はあはあと呼吸を整えた。  これはまずいかもしれない。この大きさと形に慣れてしまったら、他のもので満足できなくなるかもしれない。  夜伽の流れややり方を教えるのが自分の役目なのに、我を忘れてしまいそうになる。エアルは邪魔な髪を耳にかけ、誤魔化すように男の唇にキスを落とした。 「中が馴染むまで口付けてください。私を心に決めたお相手だと思って、ほら……」  ん、と舌を差し出すと、エアルの中に収められていた中心がより硬度を増した。 「ああ、クソッ!」  次の瞬間、ローシュの手がエアルの双丘をがっしりと強く掴んできた。あれほど拒んでいた手に指が食い込むほど尻を鷲掴みにされ、思わず舌を引っ込めそうになった。  僅差で舌を絡めとられる。馴染むまで気をつけていたのに、唇を奪われた途端に体勢を崩してしまった。ローシュの中心を一気に最後まで飲み込んだ体は、全身に流れる快楽という快楽を拾った。 「あっ……ふ、ん……っう」  くちゅくちゅと交わる互いの舌が、唾液の糸を引く。胸に体重を預けながら、エアルは自身の弱点を圧してくる異物に耐えようと腰を動かす。  だが、その動きは新たな快楽を呼び覚ましていった。ビリビリと下半身から背筋に向かって、何かが襲ってきそうな予感がした。  エアルは力を振り絞って上半身を起こした。自分の下では、雄の目を滾らせたローシュが呼吸を荒くさせていた。 「……っ私が動きます。ローシュ様は何もしないでください」  今の状態で動かれたら、自分はあっという間に達してしまうだろう。せめて自分で調整しながら、この男をイかせなければと思った。 「あンッ、ああっ、んッ、ふぁッ、くっ、んッ」  仰向けに脚を開いたまま、腰を浮かして上下に弾ませる。パチン、パチンとリズミカルに肌をぶつけながら、エアルは後孔の手前を使って男の先端を扱いた。  ローシュはエアルの動きの邪魔をしないよう自身の服の裾を噛みながら、後ろに両肘をつく。結合部に視線を送る目は、情欲に濡れた獣のように険しい。汗ばんだ額と潤んだ目が、どれだけの快楽を下半身に蓄えているのか物語っていた。  腰を弾いているうちに、なんとか達してしまわない角度を見つける。集中してローシュのそこをしばらくの時間刺激していく。  やがて体内の昂ぶりが限界を迎えようとしているのか、見るからにローシュの様子が変わった。背中をベッドにストンと預け、噛んでいた裾を離して両手で口を押え始めたのだ。顔が真っ赤になっている。時々エアルをちらりと見ては、まだ信じられないという目をして首を横に振った。 「……っイキそうですか?」  口を手で塞いだまま、ローシュはコクンと頷いた。  ローシュの返答に伴い、腰の動きを速めていく。エアルの小さなペニスが揺れる。  ローシュが限界を迎えたのは、そのときだった。「くっ!」と手の中で吼えた瞬間、男の腰が突き立てるように止まった。同時にエアルの体内に、じんわりと熱いものが放たれる。  余韻に浸る間もなく、エアルは男の中心を引き抜いた。手前で射精したのだろう。今の今まで結合していた後孔から、白濁した精液がこぼれ落ちてくる。  翼の中に忍ばせていた布で秘部を押さえつつベッドから立ち上がろうとしたが、腕を掴んできたローシュの手によって引き戻された。  エアルはイっていない。正直こちらはまったく満足していないのだ。むやみやたらに触れてくるのはやめてほしかった。 「なんでしょうか」  突き放した言い方をすると、ローシュは何か言いたさげに俯いた。 「夜伽の手ほどきだというのに、アフターケアのやり方は教えてくれないのか」 「あ……」  エアルはしまった、という顔をする。さっさとローシュの寝室を後にして、一人で慰めることに意識が向いていた。ローシュとの交わりは、それぐらい果てることを目指したくなるものだった。もっと欲しくなるものだったのだ。 「……次回お教えします」  ローシュの顔がぱっと明るくなる。 「次があるのか?」  まるで次を望むような声音にドキッとする。夜伽の手ほどきを教える回数は、人によってそれぞれだ。一回で終わった者もいれば、手ほどきの期間をとっくに終えたあとに、エアルを慰み者として抱くレイモンド王のような者もいる。  つまり、次があるかどうかはローシュの自由なのだ。エアルに選択肢はない。  エアルは男から目を逸らし、 「ローシュ様がお決めください」  とだけ伝える。  エアルとしては、今後はなるべくローシュと交わりたくなかった。体の相性が良すぎる気がするのだ。こんな相手はかつて存在しなかった。  寿命からいえば、どうせ人であるローシュが先に死ぬ。枯渇した欲望を満たした満足感だけをエアルの体に刻み、逝ってしまう。そんな予感がする。ローシュとの交わりに慣れてしまうことが怖かった。  ローシュの答えは予想通り、 「次があるなら、俺は次もエアルに頼みたい」  絶望に落とされるほどではない。ただ、望んでいない展開に参ったなと落胆する。ローシュという人間が、こんなにもセックスの相手として乗り気になれない相手になるとは、思ってもみなかった。  エアルは「承知いたしました」と言い、重たい腰を上げてベッドを立った。
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