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ローシュの言っていることはあまりに無謀だ。だけど妙に説得力があるから不思議だった。確かに……と頷かせてしまう力が、この王子の目と声にはある。
いやいや、とエアルは肯首しそうになる自分を振り払う。ローシュの考えを認めたところで、自分にとってローシュは恋愛対象外もいいところ。
そもそも好みのタイプといっても、あまりにもしつこく訊かれたからひねり出した答えなのだ。自分には好きな人間のタイプなど存在しない。いくらローシュが自分好みの人間に近づこうと努力したところで、無駄だというのに……。
今回の王子が患っている気の迷いは、こちらが想像するより長いものになるかもしれない。現実をわからせるためには、時間と根気がかかりそうだと思った。気が遠くなるが、仕方がない。
とりあえず今の段階で、この王子に必要なこと、それは――
「場所を変えましょう」
提案した直後、エアルは相手の同意を得る前に両手を組んだ。素早く物体移動魔法の呪文を唱え、手に集まった魔力をローシュに向かって放った。
「はっ? 場所を変えるってどこに――」
「いつまでも水に濡れたままでは風邪を引いてしまいますからね」
エアルたちのやり取りを見守っていた使用人たちに向かって、「ローシュ様のことは私にお任せを」と断りを入れる。
しゃぼん玉のように浮き上がった男と翼を広げたエアルが向かった先は、城の地下にある湯殿だ。
湯殿の脱衣場にローシュを放り込むと、エアルは廊下と湯殿を繋ぐ扉の鍵を閉めた。
床に掘られた大理石の浴槽には、気まぐれな王族のために常に湯が張られている。浴槽から流れてくる湯気に視界を霞ませながら、エアルはヒタヒタと床を踏みローシュに詰め寄った。後ずさりで追いやられた男の動きが、壁に阻まれて止まる。
「な、なんだよ……急にこんな所に連れてきて」
そっぽを向いたローシュの顔が赤く染まる。エアルが何をしようとしているのか、察しているのかもしれない。
エアルはその場で膝をつき、ローシュの腰に巻き付けられたベルトに手を掛けた。紐状のそれは、水を吸っているものの容易く解くことができた。
「濡れた衣服のままだと体も冷えます。どうせなら、さっさと脱いであの晩の続きをいたしましょう」
長ズボンのブレーと下着を、腰の下まで同時に下げる。二人きりになった時点でやはり期待していたのか、ローシュの張りつめた自身が露わになる。重量感のある陰茎が天を仰ぐ姿を前に、エアルはほら見たことかと冷静になった。
「こんな所で続きをするのかっ?」
「あなたの寝室に移動してもいいですが、まずは冷えた体を温めた方がいいのでは?」
エアルは男の充血した欲望を手に収め、自身の口へと運ぶ。先端から陰茎の真ん中まで一気に口内に招くと、ローシュは「んっ」と声を漏らし、おとなしくなった。
頬いっぱいに詰めた欲望に、唾液に濡れた口内の粘膜を擦り合わせる。じゅぼじゅぼといやらしい音が湯殿に響く。
ローシュの昂ぶりは、初めて夜伽の手ほどきをした晩に感じた通りの太さと大きさだ。根元まで口に収めたいのに、エアルの小さな顎には収まりきらなかった。
酸欠で苦しくなる。うまく息を吸ったり吐いたりすることが難しい。手こずりながらも、エアルは頬の内側や舌、手を巧みに動かし、男の欲望が射精に向かうよう扱いた。
しばらくそうしていると、先に音を上げたのはローシュだった。
「くっ、待って、イキそ、だ、っから……っ」
困惑した声が頭の上に降ってくる。最果てが着々と近づいている男の欲望を、一定のリズムで刺激し続けた。
「いいですよ。お好きなタイミングでイってください」
男を咥えたまま射精の許可を出す。
「バッ……そんなことしたら、口の、中、に……っ」
「どうぞ。遠慮なく出してください」
「ダ、メッ……だって……っ」
ローシュの両手がエアルの頭を掴んだ。本気で下半身から剝がしたいのか、抵抗する力はかなり強いものだった。
変わっている男だと改めて思う。無駄な抵抗をしたところで、エアルの口の中に含まれた熱杭は、ローシュの言葉とは反対に、より膨張している。
これまでに何人もの男の性器を口にしてきた。こうやって咥えてやると、ほぼ全員の男がエアルの口を玩具のように扱い射精したものだ。青臭い精液を口に放たれることには慣れている。
それに気の迷いだとしても、ローシュの恋心は現在こちらに向いているらしい。そんな相手に欲望をぶつけられる機会が与えられているというのに、一体何を遠慮しているんだろうと不思議だった。
しつこく粘っていたローシュだったが、長年に渡って錬成された口淫には耐えきれなかったようだ。エアルが喉奥まで駆使して扱いてやると、最後にはあっけなくエアルの口内に精を放った。
ゴクンと青臭いそれを飲み干す。ローシュはばつが悪そうな表情をして、こちらから目を逸らした。壁に背を預けたまま肩で呼吸する男の目には、生理的な涙が浮かんでいる。
「ローシュ様は今、人間の男が最も性欲が高まるご年齢でいらっしゃいます。私への気持ちも、そこから由来するものかと」
「……俺の気持ちはそんなんじゃない」
ローシュは水に濡れた前髪を雑に握った。
「ではなぜ手ほどきの続行をご希望されたのですか? 有り余る欲望を抑えることができないからではありませんか?」
「そ、そんなこと……」
「あなたのお父上――レイモンド王もローシュ様と同じ年代の頃には旺盛でした」
レイモンドの名前を出した瞬間、ローシュの表情が変わった。
「まあ……王の場合は現在も健在ではありますが」
「やめろよ」
低い声に制されたのは、エアルが言った直後だった。
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