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4
―― 両親は商売で忙しく、いつも家にひとり。毎日、使用人に無茶を言って寂しさをまぎらわす。
『言うことを聞かなければクビだ!』
ひとことで、どんなことでも叶えてもらえる。面白い。
耐えられなくなった使用人が、やめていく。面白い。
両親に告げ口して、紹介状も出させない。当然だよね、ボクの命令に背いたんだから。
裏切り者の転落人生を想像すれば、それはそれで、面白い。
さて、次は、どんな命令をしようかな。
うんと楽しませろ。いつも面白がらせろ。なんでも受け入れて、従え。だってボクは……
寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい
いつだって寂しくて消えてしまいそう ――
「やめろ!」
はちきれ腹の男は叫び、ブリジッタにつかみかかった。
胸ぐらをつかまれながらも、ブリジッタは最後の一音を慎重に伸ばしきる。
歌い終わると、静かに相手を眺めた。
「お気に召しませんでしたか? あなたの人生の歌は ――」
「気味の悪い女だ! 絶対にお父様に言いつけて、この街で商売できなくしてやる!」
「お気に召さなければ、お代はけっこうです」
ブリジッタは流れるようなお辞儀を披露し、男は、悪態をつきつつ逃げるように去っていった。
「いまのは、あまり美しくはなかったな。それに、ありきたりで」
まるで、スキルが発現したころのわたしみたい。
ぼそりとつぶやき、ブリジッタは広場をあとにした。
(あの、はちきれ腹の人生の歌には、大切なものがなにも、なかったのかもしれないな……)
宿への道をたどりながら、ブリジッタはちらりとそう思った。
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