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『あなたの人生、歌います          お代・銀貨1枚』 「さて、と」  旅の物売りや魔法使いの露店がひしめき、人や馬のに声がにぎやかに飛び交う、真昼の石畳の円形広場。  その一角に看板を立てると、ブリジッタは姿勢を正して息を吸い込んだ。短く切った黒髪を初夏の心地よい風がさらりとゆらす。  この街での、初営業。  どうかお客さんが、来てくれますように。  願いを込めて、最初の一音を出す。  地の底からやってきて、天へと突き抜ける高らかな hiE(ハイ・エー) ―― 「すごい声だね」 「こんなキレイな歌は、聞いたことがないよ」  歌い終わったとき、ブリジッタの周囲には小さな人だかりができていた。成功だ。  ひとりの若い娘が、ブリジッタに話しかけた。質素な藍色のワンピースに白いエプロン。昼休み中の、お針子だろうか。 「どこの国の歌なの? 知らないことばだわ」 「遠いわたしの故郷で、遠い昔に、神に捧げていた歌ですよ。意味もまあ、そんなものなんだそうです」 「この看板は? 『人生を歌う』 って、なに?」 「そのままです。目の前にいるかたの、これまでの人生を歌うのが、わたしのスキルですので」  ブリジッタはニッコリと笑う。  つられるように、娘が問いかけた。 「あたしの人生も?」 「もちろん」 「歌にすることなんて、なんにもないけど……」 「それは、歌ってみなければわかりません」 「へえ…… 銀貨1枚か……」  迷ったすえに娘は、握りしめていた手を開いて差し出す。1枚の銀貨 ―― お昼のパニーニ(サンドウィッチ)を買うためのお金だろう。  歌がお気に召したらでいいですよ、とブリジッタはまたニッコリした。  娘の目を見つめ、息を深く吸い込み、腹にためる。  彼女の人生が、どんな歌になるか。  それは、歌ってからしか、わからない ――
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