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「あっははははは!腹痛い」
腹を抱えて笑う和久井を、俺はホテルのスイートルームみたいな部屋の、ダイニングテーブルの椅子に座ってお茶を飲みながら眺めている。
俺の部屋とはえらい違いで、和久井の部屋は高級そうな調度品に、テーブルにはプチケーキやらお菓子とお茶が置かれている。
どれを食べても美味くて、夢中になって食べていると
「神代、口にクリーム着いてるよ」
そう言われて手で拭っていると
「違うよ、違う。こっちだよ」
と、手を伸ばされて拭われた瞬間
「勇者様! 大変です!! 従者殿がいらっしゃいません!!!」
そう叫びながらドアが開かれた。
そして俺と和久井の姿を見ると、真っ赤になって
「大変失礼致しました」
と叫んでドアが閉められた。
「はい、取れたよ」
さっきの人の行動が気にならないらしく、俺の頬に着いていたクリームを拭うとペロリと舐めた。
「あ、美味い」
呑気に呟く和久井に
「違うだろう! 良いのか? 誤解されたぞ!」
と叫んだ。
「え? 別に良いんじゃない? 俺達は此処の人じゃないんだし。それより、元の世界に帰る方法探さないと」
そう言って微笑んだ。
「それにしても、勇者ってなんだろうね?」
呑気なコイツに毒気を抜かれ、俺は思わず苦笑いを返した。
「お前くらいイケメンだと、勇者が似合うよな」
ぽつりと呟くと、和久井は小さく笑って
「案外、神代が勇者かもよ。俺は間違われたのかもね」
と、肩を窄める。
「はぁ? そんな訳あるか! 俺とお前じゃ、薔薇とペンペン草くらいに違いがあるわ!」
そう叫んだ瞬間、和久井は目を点にしてから再び大爆笑している。
ひたすら笑った後、涙を拭きながら
「本当に神代って面白いよね」
って言うと、再び笑い出す。
和久井はよく笑う。
コロコロ表情が変わり、そういう所もみんなから好かれる所なんだろう。
ただ、誰に対しても優しいから誤解されちゃうんだよな。俺は何度、女子が誤解して血の雨が降った現場を見た事か……(怖い怖い)
「でも、一緒に飛ばされたのが神代で良かったよ」
ニコニコしながら呟く和久井に
「お前、そういう所だぞ」
お茶を飲みながら呟くと、和久井が不思議そうに俺の顔を見た。
俺は心の中で
(これだから、無自覚天然イケメンってヤダヤダ!)
そう呟いた。
すると和久井が思い出したように
「あ!」
と叫び、幾つかある部屋のドアを開けると
「この部屋、ツインになってるんだ。最初はベッドがくっついてたけど、離しといたから使って」
にっこりと笑顔で言われ、俺は『こいつ、本当に天然無自覚人たらしなんだなぁ~』と和久井の顔を見つめた。
恐らく俺の勘だと、本来は2人が宿泊する場所だが、勇者にシングルベッドなんぞに寝かせられないと、2つ合わせて大きくしたんだろう。
「それにしても、勇者ってなんだろうね?」
考え事をしていると、ポツリと和久井が呟いた。
「悪魔とか魔族とかと戦うとか?」
俺の言葉に、和久井が苦笑いをして
「いやいや。そんなん俺らが呼び出されても、無理過ぎだろう?」
そう言って窓の外を眺めた。
「俺達の居た世界とは、全く違う世界か……。ゲームやアニメの世界だと思ってた」
窓の外を眺めながら話す和久井の横顔を見つめ、俺は小さく溜息を吐く。
「ウジウジ悩んでも仕方無い!まず、何故呼ばれたのか?どうしたら帰れるのか?を明日、聞こうぜ!」
和久井の背中を叩いて言うと、和久井は笑顔で頷いた。
「やっぱり、一緒に飛ばされたのが神代で良かったよ」
屈託なく笑う和久井に
「俺の方こそ、色々ありがとう」
ポツリと呟くと、和久井は笑顔のまま
「お互い様だろう?」
と答えた。
俺達はその後、少し会話をしてからベッドに潜り込んだ。
フカフカのベッドで見た夢は、なんだか温かい夢だったような気がする。
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