幼なじみ

2/3
前へ
/41ページ
次へ
「シロツメクサだ!」 私はつと足を止めた。 急にぐんと手を引っ張られて驚いた征司が、ぱっと私の手を離した。 「みちえちゃん、どうしたの?」 「征司くん、ほら見て!シロツメクサがいっぱい!」 そう言いながら、私はシロツメクサの花の群れの中に座り込んだ。気づいた時には、どきどきは消えていた。 征司が困った顔をする。 「服が汚れちゃうよ」 「大丈夫だよ。あのね、このお花でこんなのが作れるんだよ」 私は征司の言葉を無視して、ママがよく作ってくれる花冠を作り始めた。 私がこの場所からすぐに動くつもりがないと、征司は悟ったらしい。諦めたように大きく息をつくと、緑の上に座りこんで私の手元を黙って見ていた。 「できた!」 ママのように上手にはできなかったけれど、まぁまぁかな――。 口元を綻ばせながら、私は征司の頭の上に、出来上がったばかりの花冠を乗せた。 征司は、照れたような不貞腐れたような顔をする。 私は気にせずに、頭に浮かんだことをそのまま素直に言葉にした。 「これ、ありがとうの気持ちよ。征司くんと一緒のクラスになって、私、良かったと思ってるんだ。なんかね、すごく安心できるの。だから征司くんのこと、好きだよ」 好きの意味にも色々あることを、幼すぎたこの時の私は分かっていなかった。 征司は恥ずかしそうに目を瞬かせた。それから花冠を自分の頭から取ると、今度は私の頭の上にそっと乗せて言った。 「僕もね、みちえちゃんが好きなんだ。あのね。大きくなったら、迎えに行ってもいい?」 迎えに行く――その意味もまた、私には理解できていなかった。ただ単純に、家に「迎えに来る」だとか、学校に「迎えに来る」という時に使うものと同じだと思っていた。征司だって、私と似たようなものだったんじゃないかと思うけど。 だから――。 私は頷いてにっこりと笑った。 「分かった、待ってる。約束よ」 私たちは小指を絡ませ合って、淡くて無邪気で幼いそんな約束をかわした。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

502人が本棚に入れています
本棚に追加