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「シロツメクサだ!」
私はつと足を止めた。
急にぐんと手を引っ張られて驚いた征司が、ぱっと私の手を離した。
「みちえちゃん、どうしたの?」
「征司くん、ほら見て!シロツメクサがいっぱい!」
そう言いながら、私はシロツメクサの花の群れの中に座り込んだ。気づいた時には、どきどきは消えていた。
征司が困った顔をする。
「服が汚れちゃうよ」
「大丈夫だよ。あのね、このお花でこんなのが作れるんだよ」
私は征司の言葉を無視して、ママがよく作ってくれる花冠を作り始めた。
私がこの場所からすぐに動くつもりがないと、征司は悟ったらしい。諦めたように大きく息をつくと、緑の上に座りこんで私の手元を黙って見ていた。
「できた!」
ママのように上手にはできなかったけれど、まぁまぁかな――。
口元を綻ばせながら、私は征司の頭の上に、出来上がったばかりの花冠を乗せた。
征司は、照れたような不貞腐れたような顔をする。
私は気にせずに、頭に浮かんだことをそのまま素直に言葉にした。
「これ、ありがとうの気持ちよ。征司くんと一緒のクラスになって、私、良かったと思ってるんだ。なんかね、すごく安心できるの。だから征司くんのこと、好きだよ」
好きの意味にも色々あることを、幼すぎたこの時の私は分かっていなかった。
征司は恥ずかしそうに目を瞬かせた。それから花冠を自分の頭から取ると、今度は私の頭の上にそっと乗せて言った。
「僕もね、みちえちゃんが好きなんだ。あのね。大きくなったら、迎えに行ってもいい?」
迎えに行く――その意味もまた、私には理解できていなかった。ただ単純に、家に「迎えに来る」だとか、学校に「迎えに来る」という時に使うものと同じだと思っていた。征司だって、私と似たようなものだったんじゃないかと思うけど。
だから――。
私は頷いてにっこりと笑った。
「分かった、待ってる。約束よ」
私たちは小指を絡ませ合って、淡くて無邪気で幼いそんな約束をかわした。
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