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ずっと会いたかったあなたへ
辺境伯城の裏口から、ひっそりと潜入する。何でも辺境伯はリオたちのように行き場のない混魔の子どもたちや、非合法なものをこう言うところから出入りさせていたのだ。
「今回俺がここを使うことも、合法ではあるな」
「そう言うことね」
屋敷内に無事に潜入し、リオの知っている裏ルートで辺境伯の元へと向かう。
「すごい、こう言う時って辺境伯城の兵士AやBとのやり合いが発生するのかと思ってた」
「ばあちゃん。それどこのゲームのやりすぎ……」
「えー」
グレンに呆れられたぁー。
「そう言えば……妙だな。普通、見張りくらいはいるはずだ。ここは非合法な通路だから、ネズミの侵入を許さないセキュリティや見張りくらいはいるはず」
「リオがくるから解除したとか?」
「はは、まさか。たまに解除し忘れたとか言って、俺が怪我をしたのをみてせせらわらうクズだぞ」
「それはクズね。おばあちゃん、お仕事キメるわ」
「どんな仕事。てか、そんなスキルないでしょ」
ぐはっ。さっきからグレンに負け倒し!!
「宇宙の侵略から地球を守る正規軍くらいの技能はあるわよ」
「何それ、今度はSFゲーム?」
「ふたりとも、静かに。この先に辺境伯がいるはずだ……けど」
リオ!つまりその扉の先に……っ!ならばここでこそ、見せるべきたわ、正規軍の度胸を!
私は扉をぶち開けた。
少女の肉体にそんな力があるのかと疑問がられるかもしれないが、これぞここぞと言うときの火事場のバカ力~~!
「は~~っはははははっ!もう逃がさないわよ辺境伯!今こそこの私が孫たちの怨み、晴らさせてもらいましょうか!!」
あれ、そう言えばさっき、リオが何か言いかけたような……?
あぁ、でもまずは辺境伯……。
しかし、その部屋の中央に立つ青年の姿に、釘付けになる。
そんな、まさか。
でも見間違えるわけがない。長年連れ添って、何度も、何度も……あれ、何度も……?
それでも……。
「誰だ……?」
リオの声に、それが辺境伯でないことは明白だ。いや、私だって辺境伯のことくらいは知ってるわ。だって貴族だもの。辺境伯は……確か50か60のおっさんで……。
今、青年の足元に倒れているようなでっぷり体型……。
え、血まみれ?
よく見れば、青年の手元には刃が握られ、おびただしい返り血が伸びている。
「ばあちゃんは下がって!」
グレンの制止も振り払い、火事場のバカ力モードの私は、駆けた。
そしてその瞬間、青年が目を見開き、その目に私を映す。
ずっと……ずっと会いたかったそのひとがいる。
例え、その手が血にまみれようとも、どうしてここにいるのかも分からなくても、それでも……。
「おじいさん……!」
……いいえ……。
「匠さん……!」
「……はる……」
ずっとずっと、記憶の中にあった声が前世と変わらない私の愛称を紡ぐ。
「やっと……やっと会えた……!」
「何故……こんなところに……」
「何故って、カチコミよ……!」
「いや、ばあちゃん、それはそのー」
「まぁ、間違いじゃ、ない?」
「あいつらは……」
匠さんがリオたちを見る。
「あなたの孫です!」
「……」
私の名を知ってるってことは、あなたもきっと、地球での記憶があるのよね。
「リオと、グレン。覚えているでしょう?リオと……孫ネームはレンよ」
「……孫までこの世界にいるのか……」
「そうよ!ヒナや、ひ孫のユサもいて、ユサには奥さんと娘……つまり私たちの玄孫までいるんだから!だから、私、あなたと一緒に、生き延びるためにここへ来たの……!」
「無理だ」
え……?
「な、何でよ」
絶対……あなたに出会えたら何かが変わる……。そう、信じてた。絶対にみんなで幸せになるんだと気合いをいれた。けれどどうしてあなたは、そんな絶望に満ち溢れた顔をしているの……?
「証文がない。国王がこの辺境伯に持たせた、辺境伯であることの証」
まさか、それを奪うために、あなたはここに。どこに属しているのかも分からない。けど、匠さんの先住民の一派はリオたちの仲間……。いや、待って。リオたちが乗り込むのに匠さんがここにいるなら……少なくともこのひとは、別の一派に属している。
「そ、それがないならリオが魔王になって、辺境伯領支配計画よ!帝国とも交渉してみせる!」
「帝国は敵に回しちゃダメだ!」
……っ!?
夫婦だったころも……いや、今でも魂の夫婦だと思っているけれど、あのバカ息子がバカやらかした時くらいにしか、声をあらげたことなど聞いたことがない……。それなのに。
「それに、ダメだ。あの証文がないと……俺たちは自由になれない」
俺たちって……匠さんの先住民のことよね。
「どういうことなの?」
「証文がなんだか、知っているか」
「い、いいえ。紙じゃないの?任命書みたいな……」
「呪具だ。人間を、魔物も縛る、呪具。縛っていいという呪具。お前たちは、……同胞を解放したのか」
匠さんの視線がリオの方を向き、リオが頷く。
「一時的なものだ。あの呪具が再発動すればまた、奴隷に逆戻りだ。あの首輪は飾りだ。首輪を破壊しても、その下には本当の呪いがある。あの呪具を破壊しないと何度も呪いが芽吹き、繰り返される……。だが、辺境伯を脅しても、殺しても見付けられなかった」
おじいさんが窓の向こうを見やれば。
その瞬間。凄まじい爆音と光が響いてくる。
「きゃあぁぁぁっ!?な、何あれえぇぇぇっ!?」
「タイムリミットだ。帝国は辺境伯領を……根こそぎ滅ぼす。人間も……魔物や魔族もいるのだろう……帝国は逃がしはしない。あのおぞましい呪具を回収するまで、終わらない。辺境伯領で見つからなければ、王国を滅ぼすまで終わらない」
「何で……そこまで……っ」
それって……みんな……死んじゃう……。皆殺しってこと……?魔族たちといるヒナたちも、避難したひとたちも?確かに恐ろしい呪具だ。けれど。
「帝国は回収してどうするつもりなの……?」
「……使うに決まっているだろ……皇帝の命だ。辺境伯から奪って破壊できれば戦争は止まる。失敗すれば全てを滅ぼし、呪具を手に帝国はもっと強大になる」
皇帝の命……って……。
あれ、待って。
匠さんはどうしてそれを知っているの……?
ヒナによると確かに辺境にて出会ったことがあると言う。けれどそれは毎回ではない。
そして、リオたちすら掴んでいなかったこの戦争の真実。
匠さんは……帝国側の、先住民と言うこと……?
「ごめんな……せっかくまた再会できたのに、また……守れなくて」
哀愁を帯びた匠さんの顔は……前に何度も何度も、どこかで見たような……。
そして、再会ではなく、【また】……?
何か大切なものを忘れているような……。
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