22人が本棚に入れています
本棚に追加
何度だって、一緒に
――――どんな危機的状況でだって……。
「終わりに……させてたまるもんかぁ――――――っ!」
「えっ」
「ふざけんじゃないわよ!こんだけループさせといて!死なせといて!終わりだなんてので諦めさせてたまるもんですか!最後まで足掻くわよ!ここで抜けるなんて、絶対に許さないから!入れ歯か腰が抜ける以外は却下よ!!」
「ハル……」
「行くわよ、その呪具とやらを破壊しに!」
「そんなこと言ったって、辺境伯も持っていない、この屋敷にもないぞ」
「心当たりならあるわよ!」
「え、どこに!?」
「ばあちゃん、すご、何でわかんのっ!?」
リオもグレンも驚いているようだけど、匠さんの話で合点が言ったのよね。人間だろうが魔物だろうが……魔族と呼ばれる高位の魔物だろうが操ると言う呪具。
それがあったから……だからこそあの腰抜けは……この辺境伯領にわざわざ出向いたのね。絶対的な、呪具があったから……!
そして辺境伯が持っていないと言うことは、王命やらなんやらうまいこと利用して、あいつが持って行ったに決まってる!多分勝算も……見付けた。その答えが、ここにいるのだから。
「行くわよ。もたもとしてたらヒナたちも、辺境伯領のみんなも、……匠さんの同胞だって危ないわ!」
「行くって……具体的には……」
匠さんも立ち上がり、私を見つめてくる。こうしてると、若い頃のことを思い出すわね。もちろん、地球での若い頃よ。
「前線に決まってるじゃない!!」
「ば……っ、おま……っ、そこがどんだけヤバいところか……でも……そうだったな……いつだって……止めても来たな……」
いつだって……って……いつの……?あ……おばあちゃん妄想劇場かしら?いや、でもどうしてそれを、匠さんが知っているのかしら……?
「行こうか。今度こそ、ハルは俺が守る」
匠さんが血にまみれていない方の手を差し伸べてくれる。
まるで何度も何度も守られてきたような……。
あれが全て妄想じゃなかったら……そうかも知れないわね。なぁんて……。
「私こそ……みんなで、生き延びるために。一緒に、戦いに行くのよ」
もうひとりは嫌。
ひとりで戦うのも、あなたがひとりで戦いに赴くのも、ひとり、残されるのも。ひもり、ループを繰り返すのも。
うぅん……孫たちは一緒だったけれど……それでも、あなたがいなきゃ、意味がないのよ。
「分かった」
こくんと頷いた匠さんと、リオと、グレンと。
本当は危険な場所には連れて行きたくないのだけど。ループした歴史が、証明しているから。この戦いには、リオとグレンが必要なの。そして多分……私たちが知らないことを知ってる、匠さんも。
※※※
轟音が響く戦場。しかし無事に目的地の陣地まで来られたのはリオとグレンの記憶もあったのだろうが……まるで最初から全て知っていたかのような匠さんの先導だった。
ここは、前線の司令塔。目的の人物が待つ場所。
「ここにいるのは分かっているわ。公爵を出しなさい!」
どーんと姿をお披露目!でも守りはバッチリよ。リオの強化武具もあるし、孫たちも、匠さんもついているんだから……!
「……っ、お前、帝国の……っ」
前線の実質指揮を任されているらしい辺境伯軍の軍師は、匠さんを見るなりそう叫んだ。いや、かれんな美少女よりもまずは匠さんか――――――い。そして、やはり匠さんは、辺境伯軍の軍師すら知っている帝国の関係者……。単なる帝国側の先住民ではないのね。何となく、分かってたけど。
「辺境伯は既に討ち取った。投降しろ」
そう言って匠さんが投げ捨てたものに、軍師の顔が戦慄する。
いや……匠さん、いつの間にそんなもの持って来てたのかしら。
そして力なく崩れ落ちる軍師の傍ら、醜い叫び声が響く。
「は、放せぇっ!この裏切り者ぉっ!!」
あの声は……。
やっぱりいたか。公爵め。いつの間にやらこの場にいなかったグレンが、暴れる公爵を取り押さえて引き摺り出していた。
きっとひとり逃げ出そうとしていたのを察知して、グレンが動いてくれたのね。
「私の顔、覚えてないかしら」
すっかり意気消沈した軍師は匠さんとリオがニッコニコで縛り上げて転がしてくれたので、堂々と公爵の前に立つ私。
「だ……誰だ……!お前のような小娘など知らん!!」
あー、はいはい、そうですか。
私は母にそっくりだと言われてきたのだけど。母の顔すら覚えていなかったのね。
「リオ、多分……。そうね。右脚脛の辺りよ」
そう指示を出せば、リオがサッと公爵のズボンの裾をまくりあげる。
「あ、これか」
おどろおどろしい色の宝石が埋め込まれた……これが証文と言う名の……呪具。
すべての元凶のような産物。
「ぃやっ、やっめろもごもごっ」
公爵はグレンによって口に布を押し込まれ、もごもごさせられている。
ふんっ。アンタがそこに隠しそうなことくらい、何度ものループで学んでんのよ……!
「リオ、思いっきり、壊しちゃいなさいな……!」
「分かった、ばあちゃん」
「は?それは……そうそう破壊できる代物じゃ……」
それでも匠さんは、それに懸けてくれていたのね。だけど安心して、多分リオなら、壊せる。こう言うのを破壊しちゃうのが、魔王の特別な素質なんだから!
そして……リオの放った魔法により、呪具は粉々に破壊された。
「ほんとにやるとはな……」
「そうじゃなきゃ王都まで魔王軍は来ないでしょ」
魔族まで従えると言われた呪具よ?実際は……魔王には効果がなかったから、辺境伯も、それを独り占めして手柄をあげようとしたこの男も、破れたの。
「さて、呪具は破壊したんだから!戦争、止めなきゃね!」
「……そぅ、だな。今さら止まるとは思えないが、だが、ここでは止まれない」
「えぇ、そうよ」
どんな時だって。2人で乗り越えて来たじゃない。時には、孫たちも、冴子ちゃんも一緒にね。そう言えばあのこはこの世界に……いえ、今は早く戦争を止めなくちゃ……!
最初のコメントを投稿しよう!