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今度こそ、みんな一緒に
さて……。えぇーと、私たちは今、どういう状況なのかしら?
「呪具は破壊した。……と、なればだ。もう争う必要はないはずだ」
白旗を揚げて帝国軍に投降して、匠さんの顔を見てさぁっと青ざめた帝国軍の軍師に招かれ、軍を率いていたそもそもの指導者の前。
「あれ、誰かしら」
明らかにキラキラしてるわよ。匠さんと同じ黒髪だけど、装飾品とか鎧とか、見たこともないくらいけた違いに豪華なのに、あのでっぷり公爵とは違う、若き有能さを感じさせる。
「ば、ばあちゃん、しーっ!じいちゃんに怒られる!」
孫に叱られおばあちゃんちょっと悲しい、ナウ。
「だがしかし、タイムリミットは過ぎたはずだが?タイムリミットを過ぎた以上、帝国軍は進軍する。呪具を見つけて手に入れるまでな。そしてそれを破壊した……と言うことは一生見つからぬのだから、この戦争は王国全てを滅ぼすまで終わらんよ。それが陛下の命だ」
こ……こやつなんつーことを!戦争なんて、悲しいだけのものを敢えて続けたいように聞こえるんですけど!?それとも何か!?その陛下とやらぶん殴れば終わるのかしら……!?
「確かにタイムリミットを過ぎれば帝国は攻撃を再開する手筈だったが、陛下は俺にこう言ったんだ。呪具を破壊できれば、この辺境伯領は俺のものになる。呪具は俺が破壊した。つまりここは俺のものだよ。帝国のものになったのに、これ以上戦争を続ける意味があるか?」
ん?ここが匠さんのものって……どういうことなの……?
「呪具を手に入れたいのなら、他を当たってくれ。ここにはない。皇族の目で見たものは、全てが証拠となる。そうではなかったか?これ以上意味もなく自国内を蹂躙すれば、陛下の評判も、民意も下がるだろう。お前がそこまで愚かとは考えていない」
「ふむ……確かにここが帝国内なのであれば……陛下の支持にも関わってくるな」
「ついでにだけど」
ここでリオ。ちょー、おばあちゃんにしゃべらせないで、自分はしゃべるんかい~~っ!
「王国の南部一帯が帝国領になるのなら、帝国としても悪い話ではないはずでは?」
「ほう……?あれが噂の魔物の王と呼ばれる混じり子か?」
帝国軍の指揮者の青年が愉快そうに匠さんに問えば、匠さんも頷く。
「南部一帯は肥沃の大地が広がり、資源も多い。新たに帝国の領土となる肥沃の大地を荒らすのは、得策ではないかと」
そうよねぇ。この南部一帯って、辺境伯領ががっちがちに軍事要塞のごとく立ちはだかっているだけで他は特に豊かな土地。
「魔物の王がいる以上、魔物たちも帝国に従順となる」
「ではその魔物の王が我らに従う証拠がどこにある?」
「悪いな。リオは……魔物の王は俺とハルの孫だ。領主の孫が取りまとめているのだ。問題なかろう?ありもしない呪具を探して焼け野原にするよりも、よほど良い戦利品が手に入ると思わないか?」
そう、匠さんが告げれば、指揮者がクツクツと笑いを漏らす。
「その年でじじいはないだろう」
「うるせぇ、うせろ」
あのー、匠さん?口が悪いわよ……?あと、帝国の将にそんな口を利いても大丈夫なのかしら。
「ふむ、それも面白いな。いくばくか軍は残していく。お前は新たな帝国領土をうまくまとめあげよ。陛下への報告は済ませる。戦は終わりだ。興が削がれた」
「とっとと帰れ」
匠さんがそう告げるとその青年はひらひりと手を振りながら、去っていき……。
しかも帝国軍はさっさと撤退の準備を始める。
まぁ辺境伯軍も崩壊しているに等しい。先住民たちは自由になり、残った帝国軍と、リオたちの仲間もいる。辺境伯や公爵と言う傀儡の指揮官と言う存在ももはやない今……争う力など残っていないはず。
「それで、匠さん、あの方はどなたなの?」
「え?帝国の皇太子だよ」
……は?
「こ、皇太子いぃぃっ!?」
そんな方が自ら軍率いて来たのぉぉぉっ!?うちの王子とは大違いだわ。
「あ、で、ところで何で匠さんが領主に?」
「あー、一応皇帝の26番目の皇子だから。あいつは25番目だけど、素質があったから皇太子の地位をもぎ取った」
……ってことは、あなたたち、兄弟なの!?それで髪の色が同じ……。と言うか、匠さんが皇子さまとか、聞いてないんですけどぉぉ。
「ハル」
「な、何?」
「ハルはもちろん、領主夫人になってくれるよな?」
「……当たり前じゃない。私たち、ずぅっと、夫婦じゃないの」
「ははは、それもそうだな」
その場に笑い声が満ち、また辺境伯軍壊滅の知らせと共にヒナやユサたちも来てくれた。匠さんの正体については驚いていたけれど……。
王国を裏切った周辺領主さまたちの領土も帝国が回収し、旧辺境伯領を任された匠さんが取りまとめてくれることになった。
因みに王国側から多数の造反領主が出たのだが、最後の砦と呪具を失った王国が反抗してくることはなかった。まぁ、こちらには帝国もついているし、ついでに魔物たちも、その王・リオもついているからね。
ついでにあの例の抜け道だが、今では公式に交易通路として活躍している。そのお陰で帝国内との物流も円滑になった。
そして、匠さんと孫たち、ひ孫、玄孫まで一緒に……今は領主一家として、ようやく平和が訪れたこの地で……完全スローライフ……とまでは行かないものの、楽しく幸せに暮らしている。
どうやら……死に戻りループからは、解放されたようでなによりだ。
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