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後日譚
――――日々領主夫人として公務をこなしつつも、公務がない時はたくみさんや孫たちとのんびりと過ごしていたある日のこと。
「最近はすっかり平和になったわねぇ、たくみさん」
「そうだなぁ、ハル」
地球でのおじいさん……たくみさんと再会し、再びめおとになり、さらには孫たちまで……。
こうして再会できたことも奇跡よねぇ。
そうしてのほほんとお茶をしてた時に、それは訪れた。
「おばあちゃん、大変よ!」
ヒナがものすごい勢いで飛び込んで来たのである。
「どうしたの!?ヒナ!」
「それがそのぉ……王太子……いや、現国王が来たのだけど……」
はぁ……!?王太子……と言うと、私の元婚約者ぁっ!?そして今や先代国王を退け国王になったと聞くが……実際の執政は王妃が担っていると聞くけれど。
「何で今さら……」
「それは……その……」
ヒナが何だか申し訳なさそうにしている。
「えと……できればおじいちゃんも一緒に来て欲しいんだけど」
「それはもちろんだ!ハルに婚約破棄を告げて追放するなんて、一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まねぇ!」
「あはは……何かデジャヴが……」
デジャヴ……?どう言うこと……?
「リオ兄とグレン兄が今尋問してるとこだから……来て……?」
尋問とは穏やかじゃないけど……アイツに限っては仕方がないわよね。でも……ヒナの様子も気になるわね。
だけどその謎はすぐに判明した。
「お願いだぁ、おふくろ!助けてくれぇっ!」
いや、まさかのお前かあぁぁ――――いっ!
唐突な記憶のリバウンド。
それはたくみさんと再会して何かのステップをクリアしたからだろうか……?そしてそれは、同時に目の前の男にもボーナスのように前世の記憶を蘇らせたらしい。
しかし国王がいとも簡単にここまで……それほどまでに軽視されてるのかしらね。あの国にとって大事なのは王妃だけってことか。まぁそれも無理はないけど……さすがに忍び込んだことは周辺領主に見付かったのか、縄でぐるぐる巻きにされていた。
そうしてここまで連れて来られて……リオとグレンに……息子に睨まれてるってことか……。そうか、ヒナの様子が変だったのはそう言うことだったか。コイツは前世もバカ息子で、冴子ちゃんに迷惑ばかりかけていた。本当に……親として不甲斐ない限りだ。その上転生してもバカ息子とは。
前世私たち夫婦はこやつを矯正させようと頑張ったものの、今生では先代国王夫妻はこやつを甘やかすばかりだったからなぁ。
「てか、何でそもそもアンタがここに……」
そう、問おうとした瞬間、横をサッとすり抜けた影にハッとしたが……遅かった……!
「こんの……っ、バカ息子おおおぉっ!!!」
「ぶへあうううぅっ!」
あ……。たくみさんが思いっきりバカ息子……いや、健の頬をぶん殴ってぶっ飛ばした――――。
タケルは壁に激突し、力なく崩れ落ちる。
「お……おや……オヤジだけは……よぶなって……」
タケルが震えながら息子たちを見るが……。
「何で?」
「それとも斬られたい?」
2人とも容赦ないわね……。
「このクソオヤジ」
ヒナもヒナで容赦する気もない。ヒナも父親のことでだいぶ苦労したもの。だからこそおばあちゃんおじいちゃんっこになったのだけど。
「んで……?アンタ……助けてってなに?」
一応氷嚢は出してやって、大人しくなったタケルを問い詰める。
「その……王妃が……」
あぁ、アンタが代わりに選んだコよね……?こんなクズ男にも負けず、よく国を治めてるイイコじゃないの。むしろそんなお嫁さんを2代続けて持てたこと、アンタも少しは感謝すべきだわ。
「王妃は……冴子だった」
「は……?」
これにはみんな、目が点になった。
「記憶を思い出して気が付いた……!あれは冴子だ……!ぼくの正体がバレたら今度こそ殺される!!」
「いや、捨てられるだけでしょ。冴子ちゃんも公爵令嬢だったし、王家の血を引いているわよね……?もう冴子ちゃんが女王でよくない?」
「よくないよおおぉっ!冴子は原作に忠実だ……原作通り……オールコンプゴールインした先の王妃にこだわってる!!でも、王妃であればいいんだ!ぼくを捨てたら王妃じゃなくなる!でも殺したら王妃のままだから……ぼく、殺されるううぅっ!!」
いや……それはその……冴子ちゃんはヒロインではないから、原作に忠実と言うよりも自分がヒロインの地位につこうとしたのね。まぁ、ヒナが王妃になるよりは国を治める手腕はピカイチだから、それはそれでよかったのだけど。
ヒナに王妃の立場は重すぎる……。いや、それに記憶が戻ってはいなくとも、冴子ちゃんは自分でも知らないうちに娘のために国を支える地位についていた……と言うことよね。
「ねぇ、たくみさん。ここに冴子ちゃん呼びましょうよ!ついでに王国、帝国のものにしちゃいましょ!それで……冴子ちゃんもこっちで家族と暮らすのよ!」
「それはいいなぁ、ハル」
「ちょちょちょ……っ、そんなのぼくが殺されるじゃないか!何で冴子がここに来るんだ!ぼくはどこに行けばいいの!?」
「知らないわよ。でも、バカやってたくみさんの迷惑になることだけはしないで」
「追放してやりたいところだが……しかしそれは前世の親としての責任もあるし、できない。むしろ牢屋に閉じ込めて矯正させよう」
「それしかないわね……。むしろ……職務怠慢で処刑されないだけありがたいとおもいなさい。牢屋で謹慎だなんて、めちゃくちゃ甘い処置よ……?お父さんに感謝なさい」
「そんなぁ……!おふくろ!ぼくと冴子、どっちの味方なんだよ!」
「冴子ちゃん」
即答であった。
「あぁ――――――っ!!」
崩れ落ちるタケルは自業自得だもの。
そんなわけで冴子ちゃんをこちらに呼べば、冴子ちゃんはタケルが前世の夫だったことを認識したらしく、般若の笑みを浮かべていたが……。
それ以外は私や自身の娘たちとの再会を喜んでいた。
そして、タケルとは……。
「あなたは長年の職務怠慢、国民の血税を貪ったダメ国王として、生涯蟄居。処刑されないだけありがたいと思いなさい」
「そんな……さ、冴子おおおぉぉっ!」
冴子ちゃんは王妃としての顔で、タケルに言いはなった。
「次に生まれ変わるまでに、その性根、直しなさい」
むしろ今処刑されて生まれ変わったら、前世からの二の舞だからかしらね。
「昔は……好き、だったこともあったのよ」
冴子ちゃんがポツリと呟いた言葉は、タケルにも思うところがあったのだろうか。タケルが沈黙する。
「次に生まれ変わる時は、ましな男を探さないとね」
「えぇ、お義母さん」
冴子ちゃんは花のような笑みを浮かべる。
「冴子……ぼくだって……いや……ぼくにそんなこと言う資格はないか……」
それは、初めて聞いたタケルの本心だったのかもしれない。
その後……帝国の一部になった旧王国領では元王妃を惜しむ声もあるものの、今では帝国から皇族が派遣され、治められている。
一方でタケルは自ら出家することを決め、出家先の寺で生涯を過ごすこととなった。
この2人が来世どうなるかは……誰にも分からないが、冴子ちゃんは家族に囲まれながら、今度こそ幸せそうに微笑んでいる。……でも、たまにどこか虚ろげに空を見つめている。
本当に……次はアンタももっとましになって来なさい。じゃないと今度こそ、捨てられるわよ。
【完】
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