おばあちゃんの願い

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おばあちゃんの願い

お兄ちゃん……リオたちが溜め息を吐きながら、ヒナの縄を解いていく。 「うわあぁぁぁんっ!!急に……急に思い出したの……おばあちゃんのこと、今までの巻き戻しのこと……っ」 そして泣きじゃくるヒナをそっとなでなでしてやれば、ヒナがぽつりぽつりと語りだす。 「そうだったのか……でもなんでここにひとりで来たんだ?いや、来れたんだ」 と、リオ。まぁ、それはそうだよね。 「私は公爵の愛人の女と一緒に本邸に連れられていったんだけど」 「いや、待て待て待て、愛人の女ってヒナの母親だろう!?」 何かすごく他人行儀だな……!地球では普通に仲良し母子だったが、今生の母親は違うのか!? 「あ――――――、違う違う。あの女は公爵に取り入るために、公爵家の目の色に近い目の平民の子どもを拐って娘に仕立ててるだけだって。偶然自分と髪の色も似てるからって、あの女気に入っちゃって。私を公爵との子どもだって言い張ったの」 あー、確かにあの公爵家、藍色系の目は遺伝するって言ってたね。私は母親似だったから遺伝しなかったのだけど。ヒナの瞳が群青だったのを、公爵家の色だと嘯いて取り入ったのか。 6回目にして、物凄い事実を知ってしまった。 「あ、じゃぁコーデリアってのは」 「あの公爵が勝手につけた貴族らしい名前」 どてっ。まぁ、確かにねぇ。 「じゃぁ本名はヒナなんだね」 「いや、本名は特にないかな……?ヒナは日本での名前だし、おばあちゃんに呼んでもらえるならヒナがいいなって」 そう言って微笑む孫娘、かわい――――――――――っ!!!いや、しかしだな。 「名前がないってのは……」 「私、孤児だったから。国境地帯の、紛争地のね。名前なんてないし、毎日ひとが死んでく。親が誰だか分からないうちに死んで、孤児院に放り込まれる。男の子は兵隊として、女の子は使えないから売り物行き。子どもの売り買いなんて日常茶飯事。貴族に買われればましかもだけど、小児好きの変態とかもいるから、微妙」 な……何と……っ!!ま、孫娘がそんな辛い子ども時代を送っていただなんて……っ。今までは記憶が戻っていなかったからとは言え、私は何も知らずに「あの娘ちょっとムカつく~~」とか思ってたのか……。恥ずかしい。 「そうか……辛かったねぇ、ヒナ」 とは言え、今はもう、ヒナはかわいい私の孫娘。 そっと抱き締めあやしてあげるのは当たり前のこと。 「おばあちゃん!!」 ヒナもすりすりとおばあちゃんに抱き付いてくれて、あぁ、孫娘はかわいいよなぁ~~。また刺繍でも教えてあげようかねぇ。 そして、孫3兄妹も揃ったところで。 「おばあちゃんは、ずっとここで暮らすの?なら私もいる!」 と、ヒナ。 「でもヒナはいいのかい?ここにいることを公爵たちが嗅ぎ付けたら……」 「問題ないって。おばあちゃんがいなくなって、私もでていくって言ったらあの女、簡単に私を捨てたよ。あとは公爵と本当の子ども……次は嫡子を生むからいらないって」 あんの女クズだな本当に。つか、公爵もクズだからむしろお似合いか。しかしそのお陰で孫娘とこうして平和に暮らせるのはよきことだ。 「でも、どうしてここが分かったんだい?」 簡単には辿り着ける場所じゃないだろうに。 「私が前世でやってた乙女ゲーム冒険(アドベンチャー)に似てる世界だもの。4回目でおばあちゃんたちがゴブリンの元に向かったことを思い出して。もしかしたらそこにいるんじゃないかって思ったの」 いやいやいや、ここ乙女ゲーム!?本当に乙女ゲームだったのぉっ!?おばあちゃんが知らなくても孫娘が知ってた!すげぇ頼れる!! てか、乙女ゲームに普段あまり聞かない何かがついてなかったか? 「でも、ゴブリンの巣だぞ。危険だとは思わなかったのか?」 「ここにユサがいるのはゲームの知識で知ってたもん。ほんとに甥っ子ちゃんだとは思わなかったけど、でもユサは……ゴブリンキングは攻略対象だったからね!優しくてまともなゴブリンだってーのは知ってたよ。路銀はあの女が飽きて捨てた公爵の持ち物を拝借して工面できたし、甥っ子ちゃんにも出会えて最高だね……!」 まさかのゴブリンが攻略対象の冒険乙女ゲームあったらしい~~っ!さすがは冒険乙女ゲームうぅぃっ!!!……通りでユサがイケメンだったわけだ。攻略対象なのだから、仕方がない。 「つか、その乙女ゲームのヒロインって誰なんだ?あの聖女か?」 「ヒロインは私だよ。ゲームに私の過去みたいなダークな設定なかったけど」 まー、乙女ゲームのヒロインにしてはダークすぎるよね!?そして、やっぱりヒナは……いや、コーデリアはヒロインだったか。 「あれ、じゃぁ聖女は?」 「今だから分かる。あの女、転生者だよ。それも、多分ループしてる記憶もある。そして多分さ……ヒロインをざまぁして成り代わろうとしているタイプ。おばあちゃんは、どうするの?」 まさかのあれが黒幕かよぉぉぉ。 しかし……。 「あのクソ王太子は嫌い!おあげしましょ!私は……私は、おじいさんに会いたい」 そう告げると、みんながはっと息を呑むのが分かった。孫たちと今度こそ幸せに生きたい。それもそうなのだけど。 でももう6回目だ。6回目なら、叶うかどうか分からなくても、でも求めてもいいだろうか? 私が死に戻りながらも薄々分かっていた、その願いを言っても……。叶えに行っても。 「この世界に転生しているかは分からないけど。おじいさんと、もう一度再会して、結婚して、みんなで幸せになりたいな……!」 そう告げれば。 「うん!やっぱりじいちゃんもいないとな!」 「そうだよ。ばあちゃんにはじいちゃんだよ」 「ひいおじいちゃんとは、本当に幸せそうだったもんね!俺も応援したい!」 リオも、グレンもユサも!応援してくれるんだ……!そしてヒナは、ハッとしたように息を呑んだ。 「私、おじいちゃんにこの世界で会った……かも?」 な、なに~~~~~~っ!?びっくりすぎて入れ歯抜けるうぅっ!?あれ、抜けない。あ、そうだ。今生はまだ入れ歯じゃなかったっ!!
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