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紛争地帯
私たちが暮らす王国南部の辺境伯領。
そこには元々とある民族が暮らしていた。
しかし王国は帝国にその領土をとられまいと、辺境伯領を強引に王国領土としたのだ。
そして元々暮らしていた民族から土地を奪い、財産を奪い、人権を、自由を奪った。
彼らは事実上の奴隷とされた。女児は様々な美しい色を持つがゆえに、貴族たちのコレクションとして飾られた。
男児は兵士として魔物や魔獣……時には自分たちの同胞を殺さねばならなかった。彼らは兵士と言っても戦闘用の奴隷。
さらには身体が丈夫で、魔法や毒にも耐性のあるかれらはとても使えたのだ。だからこそ幼い頃より戦闘奴隷として首輪を嵌め、逆らえないようにした。
しかし本来なら強いはずの彼らがどうしてひとをひととも見ないような環境に置かれたのか。
王国が辺境伯領を手にするために彼らを数で圧倒し、また女子どもを人質にしたからだ。
そうして、彼ら彼女らの犠牲によりできた辺境伯領は、王国の一部として支配を受けることになる。
それに反発したのが、帝国側の同胞たち。
帝国側の民族たちが同胞たちの解放のために立ち上がったのだ。
彼らは堅固な国境を越え、そして辺境伯領に侵入し、度々辺境伯軍と交戦した。
例え同胞を手にかけなくてはならなくても。そこには彼らの大切なものがあったから。
一方で彼らについて帝国はあくまでも関係ないと言う態度を貫き、国境の検問を強化し、決してそこから彼らを潜入させたりはしていないと主張した。
さらに王国は、帝国側から無理矢理領土をもぎとり占領した自覚があったのか、帝国側に強くでられなかった。強く出れば今度こそ帝国側からの侵犯を許してしまうから。
そこは、危険な地帯だ。行くならば、せめて私だけでも……!
「おばあちゃん待って!私も行くから!絶対についていく……!」
私の気持ちを察したのか、ヒナが叫ぶ。
「これでもヒロインよ!聖女には負け倒しだけど……でも、おばあちゃんのためにも私も負けないわ!」
ヒナ……!ヒナも何度もループを経験し、地球での記憶を取り戻し、成長したのね……。
孫娘の成長を、嬉しく思うが。
「けど、現地は危険だわ」
「そんなこと知ってる!けど、おばあちゃんだけを行かせるなんてできないよ……!」
ヒナ……。
「そうだよ、ばあちゃん」
続いてリオ。
「俺たちもさ、何もしてこなかったわけじゃない。ばあちゃんの気持ちは分かってるよ。それに俺たちも、じいちゃんに会いたい」
グレンまで……。
「俺たちもだよ。アーシャはこれでも腕がたつし」
そしてユサ。隣のアーシャまでにっこりと頷く。ただの町娘かと思えば、大男を素手でぶっとばしたの見たときゃぁびっくりしたけど……心強いことにはかわりない。
「もちろん私も!」
と、シャーシャ。父のキングゴブリンの血と凄腕の猛者・母アーシャの血を引くシャーシャも害獣退治なんて軽くやってのけるのだ。
「危険なことは、みんな一緒だ。けど、そのために準備もしてきたんだ」
「リオ……確かさっきも……」
何もしてこなかったわけじゃないって……。
一体何を……?
「俺やグレンみたいなやつらや、ユサのように人間とコミュニケーションをとってうまくやってこうとしても、魔物だからって棲みかを追い出されてきたやつらを集めて、義勇軍を作ったんだ」
は……はい……っ!?
いや、その……仲間が増えることは嬉しいんだけど……。
「それは魔王軍と言うのでは」
今生ではそう言う結託はないと……ないんじゃなかったのかい……?おばあちゃんの知らないうちにまた時代が動いたのかしら。いつの間にポケットからスマートに進化してしまったのかしら……。
「いや……?俺は……一応まだ魔王にはなってないし。それに志を同じにする仲間。表面上は義勇軍だし。ここの領主や周辺の領主も秘密裏にスポンサーになってくれている」
いやまぁ、ここの領主は賢君よね。ゴブリンたちのことも住まわせてくれるし、町に有益なのならと害のある魔物とも見なさないでくれた。
そして周辺の領主もって……。さすがに辺境伯は入っていないのだろうけど。
「あれ、でもよくそんなつて……まさかループ前に……っ!?」
「いろいろとね」
リオとグレンが示し会わせたように苦笑する。まぁそうでなきゃ、王都まで簡単に攻め込んでは来られないのかも。
辺境伯とは対立しても、実は魔王には協力者がいた……。
しかし。
「ここの領主さまはともかく、何故他の領主さまも……。それに今生はユサたちとの関係があったから領主さまも味方になってくれると分かるわ。けど、過去は……ループ前は、何故……?」
ここの領主さまに比べ、他の領主さままで。
「ループ前は……よく魔物に乗っ取られてたね」
いや、こっえぇぇわっ!
そう言うことかい!
「じゃぁ今回は?」
おばあちゃん愛に溢れた優しい孫たちはそんなことはしないだろうけど。
「人間たちに有益になるように動いてくれた魔物や混血たちもいるけれど。本音を言えばこの国への不信感、辺境伯への不信感だよ」
まぁ……王太子があれだから……。
聖女さまがいれば何とかとも思ったが、あの子はあの子できな臭いのよねぇ……。
「俺たちの目的は、辺境の瓦解にある」
「それはもう、始まっているのね」
「あぁ……何故帝国がでてきたのか……ヒナもイベントではないと言っている以上、民族紛争が絡んでいることは間違いない。俺たちに協力してくれる領主連合も真意をはかりかねている。何故、それが今なのか、今回なのか。だけど……まずはばあちゃんのためにもじいちゃんを見つけたい」
「……ありがとう……危険、かもしれないのに」
「いいって。ばあちゃん孝行くらい、させてくれ」
そう言ってくれるみんなが温かくて……。前世の穏やかな日々をふと……思い出した。
ま、バカ息子がいたとはいえ。義娘も孫、孫娘たちもみんなで過ごした在りし日の記憶。
そう言えば……あの義娘はこの世界に来ていないのかしら……。ふと、何か予感めいたものが脳裏によぎった。
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