あなたの待つ場所へ

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あなたの待つ場所へ

「来るな……来ないでくれ……!」 ようやっと辿り着いた辺境の惑星(ほし)。 連れ去られた地球人たちは、この惑星の生きる糧としてその身をひとではないものとされる。 そんなことは知っていた。例えその惑星に脚をつけた瞬間、その身を惑星の一部として捧げようとも。 「そんな……おじいさん……せっかく会えたのに……」 「とっととここから去れ!この惑星に食われるぞ!俺のことはいい……せめて、お前だけでも、逃げろ。こんな俺など放って、生きてくれ」 「バカ……!何てバカなことを言うの……!どんな姿でも、おじいさんはおじいさんじゃない……!それに、あなたがいないのなら、私が生きる意味なんてない……!あなたのいない世界で、生きる意味なんてない……!」 「……ばあさん……」 「だから、絶対に放さない。例え私たちの意思が、私たちではなくなっても……私たちは、ずっと一緒だ。何度、生まれ変わっても……おじいさんと一緒じゃなきゃ、私は……生きることなんてできない……!」 私は変わり果てたおじいさんを抱き締めた。それが、その世界でのふたりの永遠の別れになろうとも……。 恋は盲目と言うけれど。 本気の恋は、いつだって命懸けでもある。命懸けだからこそ、掴む価値がある。この命を懸けても掴まないといけないものがある。 何度も。何度も。何度だって。その手を掴むために、私はこの手を伸ばすのだ……。 ※※※ 「山の向こう側だってのに……ここも避難指示か」 「そうだね……おばあちゃん。相手は帝国だもの……。原作やループ前の魔王軍は、幾度となく山を越えてきたんだもの。リオ(にい)たちが領民のみんなを避難させるのは分かるよ」 ヒナは心配そうにしながらも、胸の前でぎゅっと拳を握る。ヒナもループしてきたとはいえ、まだまだ少女だ。恐らく彼女を支えているのは、ヒロインだと言う矜持。 孫娘がここまで決心を硬くしているのだ。私だって……ヒナのおばあちゃんとして。ヒナを支えなきゃ。だてに大往生したわけじゃない。 民衆たちは、領主や領地の騎士たちの協力もあり、ぞくぞくと避難するための列を作っている。 領主連合の中の、辺境から離れた地を目指して。 王都からは……避難指示も何も出されないし、避難民への支援もない。 まぁあの王太子と、それを放置してる国王夫妻だものねぇ……。 「ユサ、ゴブリンたちは領民たちと一緒にいくのね」 「そうだね、ひいばあちゃん。あいつらは魔物の中でも弱い。多分戦争には耐えられないよ。けど、獣や魔獣くらいは追い払えるから、領民たちの避難のために護衛も務めてる。避難先の領地にも協力者の魔物がいるから大丈夫だよ」 「それなら……よかったわ」 「まぁ、本来はそいつらがループ前に領主を操ってたんだけど」 ひえ。今リオからトンデモ発言飛び出したのだけど。……でも今は協力し合っているなら……いいわよね。 ※※※ 領地の騎士たちも領民の待避完了とともに、領主さまたちと撤収し、無事に避難キャンプについたことが知らされた。知らせてくれたのは、リオの協力者の魔物からの頼り。 魔物って、こうやって遠隔伝達もできるなんて……多才だわ。 ループ前や、ヒナの言ってた原作で難なく王都まで攻めいれたのにも関わっているのかしら。 それにしても最後の避難完了の知らせが領主さまとその護衛の部隊とは。 実家の公爵ならあり得ないわよね。領民たちよりも真っ先に自分が安全な場所に逃げるわよ、あの男は。 そのくせ、目立ちたがりだからループ前に辺境まで他の兵を盾にしながらのこのこやって来たけどね。 まぁ、領民たちをまとめるものがいなくなっては困るから、避難民たちを先導したのは領主夫人と息子夫婦だけどね。 それでも、領主さまが離脱するのは最後であった。出発の直前まで、私たちがここに残ることは心配されていたけどね……。 それでも、行かなくちゃ。今度こそ、生き延びる。死に戻りなんてもうまっぴらだわ。 「それじゃ、いよいよね……」 「うん」 リオが頷く。領民たちが避難し、誰もいなくなった町を見送って、私たちは辺境伯領との境である山に向かう。 鬱蒼とした森。シャーシャとアーシャはさすがの身のこなしだが……さすがに私とヒナには大冒険。 もちろんこちらの世界で女性が着るようなお貴族さまのドレスとか、ワンピースなどではない。 おばあちゃん特製のモンペである……! 動きやすいとアーシャも喜んでくれた。でもリオやグレンに念のためだと強化魔法を付与された防具をつけられてしまった。 うぐ……これが割りと重いのよね……。 これでも魔法強化しているから素材を軽くしているようで…… 老体には堪えるわ。 ※肉体は15~6歳です ヒナもこれを身に付けて、ヒロインは体力勝負だったのだと悔しげに告げていた。うん、今までは確かに体力と言うよりも……勢いだったものねぇ……。でも、それを知ったと言うことは、あのこもヒロインとして……いや、異世界ファンタジーを生き行く女性として成長しているのだろうなぁ。 そして、孫娘の成長を肌で感じながらも、向かったのは山々を越えるための…… 「(ほら)っ!?」 「原作でも出てきた出てきた、この抜け道!」 とヒナ。 「俺らもさ、ループ毎に何度かここ通ったよ」 とリオまで……! 「この抜け道公式だったの!?」 「原作ではね。でもこの世界じゃ違うよ。もしバレてたらもっと早くに帝国に攻められていただろうし、辺境から逃げてきたひとたちもいたはず」 まぁ、ヒナの言う通りね。 「けど、逃げてきたところで、()()()の居場所は、どこにもないの」 ヒナの言葉は、ヒロインとしてでも、元公爵令嬢としてでもない。 自分のルーツをしっかりと認識した今生だから故の、言葉。日本での記憶が戻って、ヒナも繰り返される強制力からくるヒロイン脳から解放されたからこそ、認識できたのよね。でも…… 「何言ってんの。ヒナの居場所は、いつだってばあちゃんのいるところだよ」 そう言って頭を撫でてあげれば、ヒナが泣き出しそうな顔で頷く。 「俺たちもな」 リオの言葉にみんなが頷く。 やっぱり…… この場に、家族の中におじいさんがいないのは……悲しくて、寂しい。 「さて、行くわよ!」 山脈の向こう側へ、おじいさんを迎えに! 私の言葉に、みんながもちろんだとばかりに頷いてくれる。 ――――私たちは、抜け道へと……足を踏み入れた。
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