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今日も、そんな楽しい一日の一つだと思ってた。
「ねえ、そんなに歌うの、好き?」
片付けながらカフカちゃんが聞いてきた。
「うーん。カフカちゃんに会ってから大好きになった。って言ったら変かな?」
「ええ?」
「本当はね、運動じゃなければ何でもよかったの」
私は、すうっと息を吸い込んだ。
「三年生までは、何度も入院して、学校、ほとんど来れなくて。四年生になる前にもう入院は必要ないってなったんだけど、友達も出来なかったから、学校行くの、すっごく緊張した。でも、いざ登校したら、皆優しくて、気を使ってくれて、いじわるする人なんてほとんどいなかった」
カフカちゃんは静かに話を聞いている。
「でもね、皆が、遠いの。親切にしてくれるけど、仲良くはなれてない。なんかさびしくて、でも、それってわがままな気がして」
息を継ぐ。
「同じじゃないからいけないんだ、と思ったの。何か、一緒にできることがあれば、近づけるかもって思ったの。ねえ、これって、不純?」
私は笑って言ったのに、カフカちゃんは、手の甲で涙をぬぐっていた。
「わかるし、わかんない」
「え、どうし」
「わかりたくない!」
カフカちゃんが叫ぶ。
「同類だと思ったのに! 仲間だと思ったのに! 友達だと思ったのに!」
「友達だよ! そうでしょ?」
カフカちゃんに体を向ける。手を伸ばして触れようとする。でも
「ぜんぜん違うよ!」
そう言い残して、カフカちゃんは音楽室を出て行ってしまった。
追いかけられなかった。だって、仲良くなったのも初めてなら、友達を怒らせてしまったのも初めてだったから。追いかけて、捕まえて、何を言えばいいの? 何で怒ったのかもわかないのに。どうしたらよかったの?
静かな涙が出た。誰に向けてでもない、自分だけの声のない涙。ただ悲しい涙だった。
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