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鉄道会社の延伸計画は順調だった。
この辺りの地域をのぞいては。
議員たちや地元住人、なによりチムドレンの遺族たちによる激しい反対運動により、線路がそれ以上のびることはなかった。
神社とも言えないようなこの煙突神社にまつられているのが、「チムドレン」たちである。
今から約六十年前、国内で相次いで報告されたのが、新生児の先天奇形であった。
生まれつき、頭部の皮膚が円形に盛り上がっていたのだ。成長するにつれ皮がのび、徐々に煙突のような形になっていく。のびた皮の部分には毛が生えてこない。
特徴のある新生児を産んだ母親全員が、妊娠中に大手製薬会社の販売した風邪薬を服用していた。
薬品の催奇形性が明らかにされ、当該の部位は手術で切除されることになった。
しかし手術を受けたチムドレンの全員が漏れなく息絶えてしまう。
彼らは実は、その煙突によって酸素を取り込み、また二酸化炭素を排出していたようであった。
手術を受けず、結果として生き残ることができたのが、後に「サバイバル・チムドレン」と呼ばれるようになった子どもたちだった。
関東地方某所で、あるチムドレンが保護されたことがきっかけとなり、彼らの存在が徐々に明るみに出る。
無償の手術を受けずにいたのは、彼らが被ネグレクト児だったからである。親に見放された結果、皮肉なことに寿命がのびたのだ。
手術を受けないどころか、食事や水すらも十分に与えられていなかった可能性があるのだが、全員健康上の問題は見当たらなかった。
全国各地で次々と保護されるようになったサバイバル・チルドレンたちの「煙突」は、竹のようにどんどんのびていった。
そのうちに、一般的な保護施設では身体が収まらなくなってしまい、この山の上でひっそりと生活させるようになったという。
彼らには食事は必要ないとはいえ、全く面倒をみないというのも気が引け、毎日食料や水を山頂に持ち運ぶ地元住人もいたという。
彼らの頭から生えた煙突はのび続け、山の麓からでも拝めるほど高くなっていく。
あれでは夏頃、煙突に雷が落ちるんじゃないか。
そう囁かれるようになった頃、地鳴りが起きた。
雷か、地震か、土砂崩れか。
住人たちは血相を変えたが、どれも違った。
チムドレンの体が倒れ、頭の煙突が鞭打ちのようにドスンと地面を打ち鳴らしたのだった。
ちょうど集落の無い山間に倒れたので、被害者は一人も無かった。
しかし、倒れたチムドレンは息絶えていた。
様子を見に行った者が取り乱しているうちに、一人、もう一人と倒れ、頭の煙突で山をズドン、ズドンと轟かせたという。
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