The Chim-dren

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 エンジンをかけ、車を走らせた。  山道を下っていく。  途中、清水さんと遭遇するかもしれないと思ったが、すれ違うことはないまま国道へ出た。  信号待ちをしながら、左手側にそびえる緑の山々を見上げる。そのどこかに今日取材した煙突神社があるはずだが、具体的な場所は当てられない。  山から空に向かってにょきにょきとのびている煙突を想像した。  煙突の下には、「サバイバル・チルドレン」たちがいる。食事や水を与えられなくても生きていける子どもたちだ。  のびすぎた煙突では上空の空気しか吸えず、死因も酸素欠乏症だったという。  人肌の温もりもほとんど知らずに亡くなっていたのであろう彼らが不憫でたまらない。  信号が青に変わる。  両親が最期まで恋焦がれていた妹の名を胸の中で呼んだ。  「愛」。  頭の煙突がのびていれば、私も両親から受け取っていたかもしれないもの。  それが、己の片割れの名前であった。 「The Chim-dren」 了
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