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The Chim-dren
荒い息を繰り返し、老夫の背を必死に追う。
階段の滑り止めとして敷かれている木材を踏みつけながら、私は自分の軽装を後悔し、そしてひどく恥じていた。
決して軽い気持ちでこの地を訪れたわけではない。むしろ、「記者生命をかけてみせよう」という意気込みでいる。
だから丁寧に髭を剃り、ジャケットに腕を通し、磨いた革靴を履いて東京から遥々やって来たのだ。「年上の取材相手にせめてもの礼節を」という思いとともに。
まさかまさか、登山をさせられるとは思っていなかった。唯一登山者らしいアイテムは、己の頭にのせてきたバケットハットくらいだろうか。
「そんなんじゃ、日が暮れちまうよ!」
老人が――清水さんが――私を振り返る。
「若いんだから、踏ん張らんか!」
ジャージに身を包む好々爺の笑い声が、初秋を迎えた山の向こうまで響いていく。
驚くことに、彼は九十を超えているという。
清水さんも、鉄道会社の延伸計画に反対する地元住民の一人だった。
私が記者として彼に取材を申し込んだのは一週間前である。
その時、電話口でたしかに言われたのだ。
事の発端となっている「煙突神社」は、地元のちょっとした丘の上にある、と。
しかし今、彼に案内されているのは、どう控えめに表現しても「丘」とは呼べない、立派な山の中だった。
山道は傾斜もきつく、高い木々に囲まれていて、まだ午前中だというのに薄暗い。何度もぬかるみや石に足を取られそうになった。どこから熊が飛び出てくるかもわからない。
――知っていたら、もっと重装備できたのに。
オフィスでも浮かないこの装いが、むしろ生半可な気持ちで取材にのぞんだと勘違いさせてはいないだろうか……。
清水さんは服装についてなんら言及してこないのに、私は恥じらいを拭い去ることができなかった。
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