第一話

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第一話

 西暦三七四ニ年八月、日本にて。現在の人口は約1億人弱であり、少子高齢化が進んだこの国において、産まれてくる子どもは皆”日本の宝”とされている。  そのため、妊娠が発覚した際に全ての子どもは戸籍と共に、国が運営する生命保険に入れられる。  もちろん、特別な理由……若くして妊娠した場合や、性的虐待や強姦等の性犯罪による妊娠、その他、様々な理由があると思われる。  そういった場合の対処法として、各市に設けられている役所で手続きをすることが挙げられる。そうすることによって、中絶することができ虐待などのケースを未然に防ごうと国は努力しているらしい。また、中絶するのに必要な費用は、全額国が負担することになっている。  しかし、わざわざ役所まで足を運び、そこで理由を明示し、さらにはその証明までしないといけない。そのため、気づいた頃には堕ろすことができなくなるといったケースが多発した。  また、性犯罪等が理由の場合、被害者への精神を深く傷つけるおそれがあるため、どちらの場合においても、この国の政策が致命的であることは言うまでもないだろう。  その結果、せっかくの国の宝も最悪のケースになりうるため、そうなった場合、残された遺族が国に不満を持つことも珍しくない。  亡くなった場合の賠償金と言うべきか、多額の保険金が、国から遺族に支払われることとなる。  この保険金……妊娠が発覚してから出生時に至るまではそれほど多額ではないが、成人に近づくにつれて金額も一気に上がっていき、三十歳を境に徐々に下がっていく。  現代では、百五十歳まで生きることが珍しくないほど医療技術が発達したため、寿命で逝った場合に支払われるお金は、ごく僅かとなる。  ここでは医療技術を例に挙げたが、他にも産業や科学技術など、様々な技術が、決して他国には引けを取らないほどに、この国、日本は成長していた。  その裏側で、とある実験が科学者や富裕層を中心に行われようとしていた。 『一日二十四時間もの間、命の危険にさらされた場合、人はどうなってしまうのだろうか』  ということを研究テーマとしたこの実験は、ゲームの参加者を募るところから始まった。  多額の賞金を準備した甲斐もあってか、定員四十九名を設定していた参加希望者数は、北海道から沖縄まで津々浦々から計三百人もの募集が集まったため、設定人数に収まるように抽選が行われることとなった。  そんな、裏のゲームの参加者の一人。松尾家の次男である凛は、短く切り揃えられた頭をポリポリとかきながら、会場である廃病院に足を進めた。 「金に目が眩んだ、哀れな亡者たちよ! これより、ルール説明を行う!」  一攫千金のチャンス! と、書かれた紙に記された場所に足を進める。廃病院の中に足を踏み入れ、ロビーに到着し、周囲に倣って椅子に座ってから数分後。  十時五十分に差し掛かる頃。袖から出てきたのか、カウンターから、ゲームマスターと思われる人物が、そう言った。男とも女ともとれない、不思議な声だ。  遠くに立っているためそこから性別を判断することも難しい。結局何者なんだろうか‥いや、GMか‥。 「待ってました」と声をあげる者もいれば、野次を飛ばす者もいる。  「ここに、腕時計がある。皆にも一つずつ時計をつけてもらうが、全員でそれを奪い合ってほしい。残った人間で賞金を山分けすることができる。なにか質問はあるか?」 「もし、一人だけになったら独り占めできるのか?」  どこからか、声があがる。ゲームマスターはそれに頷きながら答える。 「もちろんだ。賞金は二億。タイムリミットは二十四時間だ」 「なぜ参加者が四十九人なんだ?」  また、どこからか声があがる。 「四十九からルートをとると、プラス・マイナス七となる。ラッキーセブンというだろう? 幸運だろうと悪運だろうと、運の強い奴が賞金をゲットできる。そういう意味で四十九人だ。  ちなみに参加者はこちらで用意させて頂いたゲームマスター含めて五十人だ。そっちのほうがキリがいいのでな。ああ、そうそう。ゲームマスターがやられたら、その時点でもゲームクリアだ」  また、ざわめきが大きくなる。  そんな中、ゲームマスターは周囲に呼びかけた。 「最後に、時計が外れた者には脱落してもらう。この中で、我こそは賞金をゲットしてやる!! という奴はいないか!?」  あちらこちらから、ほとんど全員の手が挙がる。中には、座っていたのに立ち上がった者もいる。その中から、一人、ゲームマスターが選ぶと、カウンターの方に呼んだ。ゲームマスターと比べるとどうやら体格がよく、清潔感がない‥。みすぼらしく無精髭を伸ばした人らしく、ゲームマスターがイジる。  選ばれなかった人達は、ゲームマスターに軽く促され、また座る。ここでも野次が飛んだがゲームマスターは気にすることなく説明を続ける。  呼ばれた人物にはどうやら腕時計がつけられたみたいだ。そして‥。 「皆が逃げているときは、おそらくこういう状態だろう。しかし、一度でも時計が身体から外れたものはこうなる」  ゲームマスターは、先ほどつけた時計を外す。...すると、体格のいい人物は、時間が止まったみたいに固まってしまった。 「こうなってしまった者は、既に心臓も止まっている。だからこうしても……」  無精髭の人はGMから蹴りをもらうと、そのまま地面に叩きつけられた。痛がる素振りが微塵もみれないことから本当に心臓が止まったことがわかる。この死はみせしめなのだろうか……。 「こうなりたくなかったら、くれぐれも時計をつけたら、外さないように。あーもちろん、時計をつけない人間に参加する権利はないので、覚えておくように」  その後、無精髭の人は袖に送られ、それと同時に、時計が一人一人に配られた。懐中時計か腕時計か選べるらしい。  時計を貰うと、俺は時間を確認した。ロビーの時計と合ってるかの確認もかねて。現時刻は夜の11時。説明開始から約十分が経過していた。  夏もまだ始まったばかりだというのに、長袖の人もいるのが気になったが今はどうでもいい。っていうか俺も長袖だし‥。まぁ、なにか理由でもあるのだろう。 「そうそう、忘れてた」  ゲームマスターが軽いノリで、そう言った。 「隠れて時間が過ぎるのを待とう、なんて考えてる者もいるかもしれないので言っておこう。  この時計にはレーダーが内蔵されていて、原則一時間おきに、最後だけラスト三十分段階で自分や、他者の居場所がわかるようになってるので頑張るように。開始時刻は1時間後、健闘を祈る」  静かに袖に消えるゲームマスター。  とたんに、騒がしくなるロビー。  その中で一人、松尾凛はロビーを後にした。  階段の足音に気づく者はだれもいなかった……。   「皆様、大変長らくおまたせしました」  都内、某所にてパソコンが多く並ぶ一室にて、アナウンスと共に一つの影が姿を表した。 「初めに、ここまで来てくださり、誠にありがとうございます。全体を代表してお礼申し上げます」  黒いパーカーにフードを深く被った仮面の男が口を開いた。  その声に皆、静かに会釈する。 「また、この企画をするに至って、投資してくださった皆様、誠にありがとうございます。全体を代表してもう一度お礼申し上げます」  集まっているのは皆、富裕層の人間ばかり。中には有給を消費してまで来た人物もいるとか。もっとも、働きもせずに収入を得ている人が大半だが。 「では、皆さん。お手元にありますパソコンを開いてください」  ざわめきが起こる中、一つ一つにパソコンのスイッチが入る。 「「おお、、、」」  皆の目に写ったのは、一人の青年が皆に向かって話しているところだった。 「ただいま、参加者の皆様に我々が準備させていただいたゲームマスターに、このゲームのルールと注意点について説明させて頂いております。そして‥‥‥」  仮面の人物は全員にフォルダを開くように説明した。すると、なんということだろうか、そこには参加者全員分、計五十人もの個人情報が載っていた。 「同じ名字の人がいますね‥‥‥もしや、兄弟ですか?」 「そうですね」 「おお、兄弟同士で争わせるとは、あなた方も人が悪い……」 「いえいえ、投資してくださった皆様には敵いませんよ」  富裕層の一人と、仮面の人物が互いに笑う。  ひとしきり笑った後、仮面の人物が再び説明に入った。 「ルールは随時、見られるようになっております。また、いたるところに監視カメラもついているため、色んな場面をその目で楽しむことができます」  あちらこちらから、おお……と歓声が上がる。 「また、前もって告知していた通り、この事は他言無用でお願いします。まぁ、もし警察が捜査に入る……なんてことになれば、困るのはもちろんあなた方ですからね」  このゲームはあくまで実験ですが、あなた方にとっては、数少ない道楽へとなるでしょう。  自らの命を惜しむ姿に、罪悪感に潰されおかしくなる姿に、徒党を組んで協力する姿に、それらを裏切る姿に、きっとあなた方は興奮することでしょう。  もうすぐ、その幕が開きます。どうかその時まで、いましばらくお待ち下さい。  アナウンスと共に、仮面の人物は姿を消した。それと同時に、参加者も自由行動を始める。  腕につけた時計をみると十一時十分を指し示していた。                  
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