第七話

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第七話

 黙々と進みながらドアノブを回す手には、どこか焦りがあるように感じた。    時計の長針はVIIIを指し示す。    確かに、長居している余裕はない。早く拠点へ戻らなくては。急いでドアを開け、早足で歩く。 「おやおや」 「こんな暗い中で懐中電灯つけながら歩くなんて、おかしい人もいるんだねー」 「そんなこと言うもんじゃないで、透真。この人たちはリスクよりも安全を取ったのかもしれんのやから」 「でも結局僕たちに見つかってるんだから、この人たちってバカだねー」 「確かにそうかもしれないわね。もっとも、遅かれ早かれ私たちに会う運命なんだけどね」  声からして男2と女1、合計3人。  目的が一致しているのだろう。同盟関係にあるとみて間違いはなさそうだ。  まずい。両手が塞がっているこの状態じゃ……。3対1だと、さすがの鈴香でも厳しいだろう。 「おいおい、お前ら一体なんなんだよ! 急に出てきて、何しに来たんだよ!! 俺たちは今から……ムグ」  とりあえず荷物を置き少年の口を塞ぐ。何しに来たって……そんなの時計を奪いに来たに決まってるだろう。  愚問にも程がある。 「確かに、急に現れて驚かすのは紳士としてよろしくないな。俺は遠野陽希だ。ほら、二人も」 「え~、そもそも人に何かを尋ねる時はまず自分から名乗れ~って、本に書いてあったよ~」 「あ? だから、名乗るんだよ。先に失礼したのは俺らなんだからよ」  いや、失礼でもなんでもないと思うが。むしろ、なんだっけ。とうま、とか呼ばれてたよな……あの子、のほうが正しい気はするが。  っていうか、あっちでも威圧は使われてるのか。可哀想に。 「まぁ、いいんじゃない? 名前知られたところで不利になる訳じゃないし。私は、井廻奈津。名前珍しいとかは耳タコなので」 「いまわり?おまわりみたい。珍しい名前」 「でしょ~。なっちゃん名前珍しいんだ~」  刹那、彼女の何かがプッツンした音が響く。ついでに怒鳴り声。敵……だよな。  俺は鈴香にアイコンタクトを送る。    頷いたのを確認すると、二人で静かに行動に移す。目的は陽希だ。  鈴香が懐中電灯の電源をオフにする。視界が真っ暗になるがそれは向こうも同じだろう。少年が騒いでいる間にすることは、唯一つ。奇襲だ。  まずはそこにいたであろうとこに蹴りをいれる‥が完全に空を切る。  鈴香も同じなのか、反応がない。   ……いや、静かすぎる。  さっきもそうだった。近づいてきたら気配でわかるのに、なんであいつらにはそれが適用されなかった?  俺達が話していたからか?……いや、違うな。  油断していた?  ……いや、それも違う。    その油断が命取りになることくらいみんなわかってるんだから。    集中力が切れていた?  正直それはある。空腹状態なのも相まって、ずっと糸を張詰めるのは正直言ってしんどい。  でも、本当にそれだけか‥?  それじゃ少なくとも相手の気配、息遣い、その他様々なものが読み取れない。  対して俺は焦りからか空を切るパンチと蹴り。当然勝ち目はない。  少年はまだ騒いでいるため、ゆっくり少年の方へ近づく。そして目を瞑って相手の居場所を……。  その時暗闇に光が差した。  懐中電灯がつけられたのだ。そして…… 「ゲームセットやな」  そこには懐中電灯を持った陽希と背中を互いにカバーし合っている奈津と透真。  そして傍らには‥ 「鈴香!」  呼びかけるが反応はない。  気絶しているのかあるいは……。 「あー大丈夫やで。まだ時計は取うとらんから。後でまとめて取ろう思うてな」 「そんなこと言ってないでさっさと時計取って終わらせればいいのに……。いつも爪が甘い」 「そんなこというなら奈津がとればええやん? 俺には俺のやり方っちゅうもんがあんねや」  突如間合いを詰められ、繰り出される蹴り。  とっさの反応でガードしたはいいものの腕がジンジンする。それどころか、身体に伝わる衝撃がすごい。  流石の喧嘩慣れしている俺でもこれはちょっとまずいな……。  もはやここまでか……そう、観念したとき――時計に内蔵されているレーダーが反応した。  それは二時の定期連絡……。  時計に気を取られ、一瞬反応が遅れる陽希。そしてその一瞬をついて凛は右手を突き出した。ここでゲームオーバーになるわけには……。 「あー、もう。わかったわかった。これはつまり……うん。俺達の降参や」  急に両手を上にあげる陽希。  それを見て奈津と透真も互いを見合って両手をあげる。  俺の腕は変わらず空を切る……。  っていうか、今なんつった? 「だからー降参や。降参。ちょっと急用ができてもたわ。堪忍な」  そう言って陽希は俺達に背を向ける。   「ほんとはもっと殺りおうてもよかったんやけど、残念ながらタイムオーバーや、それじゃあな」    そう残して三人は闇の中へ消えていった。    律儀に残されていった懐中電灯が淡い光を放っていた。  
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