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自分の居場所
紫春という男は16歳にしては達観した、乾いた人生観の持ち主だ。
それは別に冷たいとか、人に興味がないとかそういうわけでもなく。
皆に分け隔てなく優しい。
しかし、その優しさには来るもの拒まず去るもの追わずの精神が常にある。
特定の居場所を作らず、いつでも消えれるようにする彼は、その精神性から他人との関係も希薄だった。
それはある意味、自分を守る盾でもあり、同時に人との繋がりの弱さを意味している。
そして紫春は自分が人間関係において最も大事にしているものを知っている。
それは『利用』と『依存』だ。
彼が人に優しくするのはその人に利用価値があるからで、その人を助けることで自分に有利になるから。
そして、優しさを与えれば、人間はもっと欲しいと貪欲になる。
だから紫春は自分を守るために、人に優しくするし、人を助ける。
常に無償の優しさを持つ人間でいれば、世の中は愛に満ち溢れるし争いごとも起きずに平穏だろう。
しかしそれは難しい話だ。
人間は自分で思っているよりも複雑な生き物だ。
無償の愛を注げる人間も、それと同じだけ見返りを求める人間だっている。
そして紫春の生き方は後者に当てはまるのだ。
彼は自分のためにしか優しくできないし、そのためにどこにでも溶け込み、そして利用価値がなくなればさっさと離れられる。
まさに、根無し草。
居場所などいらない。
そんな生き方をしてきた。
根を張らないのが彼の生きる術であり、それは相手に心の壁を作ることも意味する
踏み込まないし、踏み込ませない。
……そうやってうまく生きてきたのに、玲に対してだけは欲張りになる。
玲とは、一つ年上の女の子で親友の想い人だ。
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