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「そうなのか?」
玲はどこか納得いかない様子ながら、これ以上突っ込むのをやめたようだ。
本音は、もう少し踏み込んできてくれても……と思ってしまう自分もいる。
自分の方が本音を言うのを避けてるのに?笑わせる。
紫春は自分の欲深さに呆れつつ、今日もまた「親友の頼み」であることを強調している自分に嫌気がさしていた。
しかし、その関係を変える勇気もなければ、踏み出す勇気もない。
そんな臆病な己に辟易しながら、玲の隣で困ったように微笑んでみせるのだ。
***
ある日、とうとうその日がきた。
自分が隠し続けていたことが、玲に知られたのだ。
隠し続けたといっても、それは自分が玲に対して本音を言ってなかったことで、その内容までは知られていない。
それでも、玲にしてみれば不満になるのだろう。
いつも隣にいて、一番通じ合っていると思っていた相手に隠し事をされていたと。
「なんでだよ。なぁ、紫春。今までそばにいてくれたのも、全部演技だったのか?」
そう言う玲の顔は眉根を寄せていて、ああ怒っているのだとわかる。
「あいつに頼まれたからってだけじゃ、なかったと思ってたよ……私は。なんだかんだいってさ、紫春は心を許してくれてるんだなって、うれしかったんだよ」
そんな風に寂しそうに告げる玲に紫春は、ギリッと歯を食いしばった。
頼まれたからだけじゃない、そんなことないって言えたらどれだけいいか。
隠し事をしているのは自分のエゴで、玲にそのことに関して踏み込まれて、もし離れられたらと臆病になっていたからなのに。
でも、それを今言ったところで……玲の不信感は拭えない。紫春は口を噤むしかなかった。
「だからもういいよ、無理しなくても」
そう言って悲しそうに笑う玲の表情は忘れられないだろう。
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