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それほどまでに傷ついた表情で、紫春は胸が締め付けられるようだった。
そして同時に思うのだ。
ああやっぱり俺は、玲に惹かれてるんだ、と。
根を張らず、相手と心の壁を積み上げてできた要塞は、簡単に踏み込ませない。
玲に対してもそうやってうまく隠してきたつもりなのに。
こんな風に中途半端にバレてしまうなら、始めから正直に向き合えばよかったのかと思う。
いま、玲の手をとってどこかに連れ去って行けたら、どんなに楽だろう。
でも、そんなことをしても玲の心は手に入らないし、親友を裏切ることになるだけだとわかっているから。
「そう……だね」
だから紫春はただ曖昧に笑って頷いた。
その日から、玲との距離が開いたように感じたのは気のせいじゃないだろう。
それは自分の隠し事がバレたことで、今まで以上に踏み込ませないように壁を作ったからだ。
これ以上、醜い部分を知られたくなかったから。
それでもなお、玲は紫春に話しかけてくるが、それはどこか他人行儀な会話だった。
そんな関係になったのは自分のせいなのに、紫春は困ったように微笑んで、玲の隣にいる。
二人の間は少し動けば指が触れそうなほど、近いのに。
心の距離は、ずいぶんと遠い。
でも、この関係ももう終わるだろう。
玲が紫春の隠し事を知ったことで、二人の関係はギクシャクしてしまっているから。
そして、そのきっかけは自分にあるのだから……。
***
「なぁ紫春、ちょっと話があるんだけど」
ある日、玲にそう切り出されて紫春は内心ドキリとした。
まさかまた何かバレてしまったのか?と不安になったのだ。
そんな不安を悟らせないように、努めて平静を装って紫春は玲に聞き返した。
「なに?話って」
「……いや、ここじゃちょっと……」
そう言って言いよどむ玲。
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