自分の居場所

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 その顔は少し暗く、紫春の心臓は早鐘を打つようにドクドクと脈打つ。 「じゃあ放課後、俺んちに来てよ」  紫春はそう言った。その顔は微笑んでいて、その笑顔で全てを拒絶しているようにも見える。  踏み込まれたくない、自分という人間の本心を。  紫春のそんな態度に玲は少し驚きつつ、「……うん」と少し困ったような表情をして頷く。  そんな表情を見て、また胸がズキリと痛んだが紫春がそれを表情に出すことはなかった。  そして放課後になると二人は紫春の家に向かった。  玲と一緒に家へと向かう途中、紫春の心は複雑だった。  もう何を言われるのか、それに対してうまく切り抜けられるか。  頭の中はそればかり。  隣の玲をチラッと見れば、真っ直ぐに前を向くその瞳は、いつも通り凛々しかった。 「それで?話ってなに?」  アパートにつきコップに水を入れてもってきた紫春は、ローテーブルにそれを置く。テーブルをはさんで反対側に座る玲は、射抜くような目をして紫春を見ていた。 「なんで、いつもそんなに一歩引いてるんだ」 「なんのこと?」 「私の気持ち知ってて、あえて、あんな態度とったのか?」  玲はくしゃりと顔を歪めながらそう言った。そして(せき)を切ったように続ける。 「私が人一倍頑固なの知ってるだろ?なのにさ……一緒にいて楽しいって思わせといて、それがバレたら距離とって、なんなんだよ。最初から嘘ついてたってことだよな」  ああやっぱり隠せないなと思うと同時に紫春は苦笑した。 「嘘なんて……」 「ついてるだろ!本当は、あいつに頼まれたからって……面倒だと思ってたんだろ。だって、私は紫春にとってはなんの利用価値もない、お荷物みたいなもんだろ?それなのに、そんなこと知らずに……私が、私だけが、バカみたいに楽しんで……ほんと、笑えてくる……」
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