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自嘲するように言う玲の瞳には涙が浮かんでいた。そしてその瞳からポロリと一筋涙が流れたらあとは止めどなく流れる。
そんな玲の姿に紫春はグッと唇を噛んだ。
なんで玲が泣くんだ?泣きたいのはこっちの方なのに……。
自分の考えが浅はかだったせいで、隠し事がバレたことでこんなにも彼女が傷ついてるなんて思っていなかった。
「ごめん」
だから紫春の口からでたのは謝罪の言葉だ。それは玲にとっては、肯定のように思えて。キッと紫春を睨みつける。
「もう、紫春の言葉……全部嘘に聞こえる」
そう吐き捨てるように告げた玲に紫春は自分の中で何かが崩れる音がした。
それは必死に保ってきた、紫春の砦が崩壊した音。
「なんで、信じてくれないの?」
気がついたら紫春の口からはそんな言葉が出ていた。
今まで嘘をついていた者の言葉に何の説得力もない。
それを理解しているはずの紫春が溢した言葉。
だから、素直にそう呟く紫春に玲は驚いたように目を見開き、次の瞬間には目を釣り上げた。
「信じられるわけないだろ!?そんな態度取られて!」
「うん、そうだね。ずっとそうしてきたもんね」
そう言って自嘲する紫春に玲はグッと言葉を詰まらせる。そして少し間を開けてから口を開いた。
「……紫春にとってはその他の一人だったのかもしれないけど、私にとって紫春は特別だったよ」
そう言って玲は立ち上がる。帰るのだろう、もう話はないとでもいうように。
当然だ、自分だってこんな奴許せるわけもない。
そういう風に生きてきて、自分も同じように離れることを選んできた。
だから紫春は玲に対して何も言う権利もないし、引き止める資格もない。
そんなこと、理解しているはずだった。
玲が隣を通り過ぎようとした瞬間、その手を掴んでいた。
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