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ああもうダメだな……と紫春は思った。
「じゃあさ……」
もうどうにでもなれと自暴自棄になったように紫春は続ける。
「一緒にいるかい?あいつなんか置いといて、俺と二人で……」
あいつとは親友のこと。
その名を出せば、玲の瞳が揺れた。
ほらな、と紫春は乾いた笑みをこぼした。
「俺は、玲が思っているような人間じゃないんだよ」
そんなことを言って、紫春は目を逸らす。自分自身を落とす物言いに、悲しくなる。でもそうでもしないと、玲に何か言われた時にショックが大きくなるから。
「どんな紫春でも私……」
言いかけた言葉を遮って、紫春は言う。
「もう無理だよ……これ以上続けたら俺が俺じゃなくなる」
そして縋るように玲を抱きしめた。
もう離したくないと、でもそれは叶わないと……強くその身体を抱きしめながら呟く。
「こんな気持ちになるのは、初めてなんだよ」
いつだって利用してきた。自分のためだけに、他人を利用して、都合が悪くなれば切り捨てた。
そうして生きてきた紫春が玲に出会って、初めて無償で接してくれることが心地よくて……でも自分にそんな価値はないと突き放す。
「あいつを裏切りたくない。これ以上俺をクズにさせないで」
それは紫春の必死な願い。
親友の大切な想い人。なのに惹かれてしまった自分の浅はかさ。
自分から離れられないのは、これが本心ではないから。
それでも、親友の……目の前の玲のことを思えば、この選択肢が正しいとわかる。
どこに居ても根を張れずに流れに任せて、一生懸命根を張ろうとしても拒絶されたらと怖くて、いつしか根を張ることを諦めて、そうして生きてきた代償がこれだ。
紫春が玲を抱きしめる腕に力を込める。
「もう、これ以上……報われないことに縋りたくない」
それは懇願にも似た響きだった。
「……わかった」
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