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 異変に気付いたのは数刻後である。  掌の向こうの彼の身体がもぞりと蠢き、温かな肌の感触が、固い冷たさを帯びてきたのである。  はっとして見上げた彼の顔には蒼い鱗が出現しており、瞬く間に竜頭に、、、スルスルとほどけるようにドラゴンの姿に戻っていく。私は部屋を見回し、取り急ぎ窓やクローゼット、机等に”私を包んで(コットンツリー)”をかける。  見守っていると、身体の膨大は”私を包んで(コットンツリー)”に触れるか触れないかのところで止まった。  本来のよりは小型の蒼い竜が部屋いっぱいに寝そべっていた。  けれどその目は開く気配がなく、気持ちよさそうな寝息もそのままである。  スピカはヒト変化の時間の方が永い。永い年月をヒトの姿で生きてきた彼がこちらの姿に戻るのは、大事の時か、湯浴み等羽を伸ばす時くらいであることは生活をともにしていて気付いたことだ。驚いた時など興奮状態になると尻尾が出る時もあるが、それもヒトの形は保ったままだ。SEXの折だって朝までヒトの姿で寄り添ってくれる。  一度、遠慮しているのかヒトの姿が好きなのかと聞いたことがあるが、”いろいろと都合がいいんだ。それにこの手だと、感触や温度が事細かに分かるのがいい。ニンゲンの手は、生物の大発明だと思うよ”と笑っていた。  妖魔が、ヒトの姿をとり続けることは相当気を張っていないといけないのだと思う。それが自然に、無意識的に保てるようになるのにどれだけの年月を必要としてきたのか、とても理解が及ばない。それが今解けている。とならば、これは…… (リラックス、しているのかな……)  胸の内側がほんのりと熱を帯びる。  と、スピカの手が探るように動く。だが目は開かず、気持ちよさそうな寝息もそのままだ。  彼の鼻づらに避難していた身体を今一度彼の腕の中に横たえると、きゅ、と私の背を包み込むように手が動き、爪が頭を微かに撫でてくれる。蒼い鱗はひんやりと、でもどこか温みを帯びていて、シーツはどこかへ行ってしまったけれど十分眠れそうだった。頭上の規則正しい寝息に、くっつけた肌の向こうの脈動を感じながら、私は目を閉じた。
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