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Ⅺ
目を開けると、透明を通して薄靄となった日光の真っ直ぐな光が、自分を隅々まで照らしていることにシャナは気付きました。
何か大きなものが水中に潜り込む気配を感じました。その何かはシャナを包み込み、持ち上げてくるようでした。その上でシャナもやっと身体を起こし、何かと共に上昇します……
水の面に顔を出した時、何かが違うとシャナは確かに感じました。吸う空気がやたら透明で、形のないもののように思えます。その肌に感じる温度も、実体のないもののように思えます。
まじまじと見つめた自分の姿がすっかり変わっていることにシャナは気付きました。肌は雪のように白く滑らかで、どこか透けている心地がします。絹のドレスは光で織り上げたように軽やかで、水の中にくぐらせたように柔らかです。あの自慢の金髪は以前の輝きを潜め、上品な月光を編み込んだよう。然しながらアイオライトの瞳は以前のまま、彼女の世界を映しております。
シャナの転生は成功しました! 彼女は今、キラキラと美しく透き通る水精となって背を伸ばし立っていたのです。傍らには”シャナ”の身体も横たわっております。見上げたそこには、愛しい夫の姿。
「おお、シャナよ、シャナよ、ようやっと、永久に、共に、いられるのだ!」
そう、クエレブレが嬉しそうな声で、愛しそうな目で言うものですから、シャナもすっかり清々しい気分で、
「あなた」
そう呼んだのでした。
――
スペインのある地方、その洞窟には一頭のクエレブレが棲んでおりました。クエレブレにはシャナという名の、美しい水精の妻がおりました。実はこのシャナは元人間で、このクエレブレが一目惚れし、求婚した人でした。シャナもそんなクエレブレの想いを受け入れ、彼の魔法をもってして転生したのです。
このクエレブレとシャナの結婚に、彼の洞窟を訪れている女のクエレブレは賛辞を送り、男のクエレブレは彼の美しい妻を見て羨まし気な声を上げるのでした。
二人はそれからも仲良く暮らし、月の綺麗な夜には、今でも二人のセレナーデが聞こえるといいます。
[That’s the end of the story.]
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