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愛海はこれまで何度となく来たゲームセンターであったが今までで一番充実を感じていた。 もちろん占いの結果には納得いかないし思い出せば怒りに近い感情もある。
にもかかわらず心がこれ程までに高揚しているのは心の声が聞こえてくるからではなく撮影時の距離感にあった。 できたプリクラを一枚スマートフォンカバーへ貼り二人はゲームセンターを出る。
愛海は先程クラスメイトに言われたことについては特に気に留めていない。
―――にしてもプリクラ、いつも以上に距離が近かったしドキドキしたぁ・・・。
―――だけど結局それ以上は何もなかったな。
―――距離が近かったのも選んだフレームのせいっていうだけかもしれないし。
チラリと思佑を見る。 思佑の表情がどことなく暗く見えた。
「・・・思佑くん? どうしたの?」
「うん? 何もないよ?」
そう言うもやはりどこか様子がおかしい。 先程まであれ程楽しそうにしていたのに、今はその気配がすっかり消え去っている。
実際愛海も聞こえてくる声が本当なのかと疑心暗鬼になってメンタルは不安定だ。
「ごめん・・・。 無理矢理プリクラを撮ろうなんて言ったから機嫌悪くした?」
「別にそんなことないよ」
「じゃあどうしてそんなに楽しくなさそうなの?」
「最高に楽しいって」
そう言うと思佑は笑顔を見せてきたがそれは明らかに無理矢理作られたものだった。 しかしそう言われると何も言葉が出てこない。
―――・・・どういうこと?
―――さっきから聞こえる思佑くんの声は全て私を想ってくれるような嬉しい言葉。
―――でも今の思佑くんの様子からは本当にそう思っているとはどこから見ても見てとれない。
―――やっぱり全てただの幻聴なのかも・・・。
少し空気が悪くなっていると同じクラスのカップルとバッタリ遭遇した。 先程のクラスメイトとは別の二人だ。
「あ、愛海じゃん!」
「美恋(ミレン)ちゃん・・・」
落ち込み気味なこともあり美恋との出会いを心から喜べなかった。 ただ気が付かなかったのか美恋は全く気にした素振りもなく愛海に泣き付いてくる。
「丁度よかった! 愛海、聞いてよー! 睦秋(ムツアキ)ったら酷いんだよ!?」
「ど、どうしたの?」
彼氏本人である睦秋は美恋の隣にいる。 ただ今の思佑と同様にデート中だろうにあまり楽しそうには見えない。
「睦秋にさ、誕プレは何がほしいのか聞いたの! でも『いらない』って言うんだよ!? 『何でもいい』じゃなくて『いらない』だって! どう思う!?」
「違うんだ! 悪い意味じゃなくて俺と一緒に過ごしてくれたら何もいらないっていう意味で」
「それはただの建前でしょ!? 誕生日は大切な日だから何か贈りたいの!!」
睦秋は話に割って入ってきたが美恋が更に言葉を否定した。
「え、えっと・・・。 そうは言っているだけで本当はプレゼントほしいんだよね?」
尋ねると睦秋はブンブンと首を縦に振る。
「あぁ、もちろん!」
「ほら、言葉の綾っていうヤツじゃない?」
そうアドバイスをしてみるも、美恋はあまりそれを聞いた様子はなく一人何かを閃いたように手を叩いた。
「そうだ、愛海! 今少しだけ時間くれない?」
「え、今?」
「思佑くんもお願い! 一時間だけ愛海を借りていい? 一緒に睦秋の誕プレを買いに行きたいから! やっぱり女子じゃなきゃ分からないこともあるし、ね!?」
「そんな突然なッ」
「愛海、私を見捨てるの・・・?」
ウルウルとした目で見つめてくる。 今は愛海と思佑もデート中ではある。 ただ何となく上手くいっていないような気もして、これで気分転換になるのかもしれない。
答えを委ねようとチラリと思佑を見た。
「・・・うん、行っておいでよ。 俺は適当に時間を潰しているから」
「え、ちょッ」
「本当!? ありがとう、思佑くん! 愛海行こう!! そんなに遠くへは行かないから!」
美恋は愛海を強引に引っ張っていく。 去り際に思佑を見てみると笑顔を浮かべながら小さく手を振っていた。
―――そこは無理矢理でも断ってほしかったのに・・・。
思佑も心から愛海に行ってほしいと思っていたわけではないと愛海自身でも何となく分かっている。 ただ今でこそハッキリと断ってほしかった。
愛海がいくら断ってみても思佑がああ言ってしまえば、断り切るのは難しい。 寂しさを覚えながらも買い物に付き合った。
結局プレゼント選びは美恋が好きなように選び感想を聞いてくるだけで愛海は本当に付いてくる必要あるのかなと思った。
今も何だかよく分からないアクセサリのようなものをカチャカチャと弄っている。 そのような時ふと美恋は愛海に尋ねてきた。
「ところで最近愛海は思佑くんとはどうなの?」
「え? うーん、変わらずかな」
「思佑くんのことが好きなんでしょ? ならもっとアタックしなよー!」
「今でも結構頑張っているし、これ以上どうやって・・・」
「お揃いのものでも買って身に付けてみたら? 色違いがいいかも」
「色違い、かぁ・・・」
そう言われ美恋のプレゼント購入後に探してみると愛海の気に入ったデザインのブレスレットを見つけた。
「これとか好きかも! でも同じ色しかない・・・」
色違いは丁度売り切れで同じものしかなかった。
「愛海はそれが気に入ったんでしょ?」
「うん・・・」
「ならそれでもいいんじゃない? こうやって選んではいるけどさ、付き合っている相手からのプレゼントって何でも嬉しいものだよ」
「・・・そういうもの? 分かった」
そう言われ愛海は思佑とお揃いのものを購入した。
―――これで喜んでくれるかな?
―――悪くなっていた空気がよくなるかも。
そう思い顔を綻ばせていたのだがこの時思いがけない言葉が聞こえてきた。
“あーあ、二人で出かけているっていうのに他の人を優先するとか有り得ない。 そこは俺が頷いても『俺と一緒にいたい』って言ってほしかったな。 こんなことになるなら最初から来なければよかった”
「え・・・」
「うん? 愛海、どうかした?」
異変を感じた美恋が問いかけてくる。 これまで聞こえてきた言葉は自分に対して好意的な言葉だけだった。 しかし今のは明らかに負の感情が渦巻いていた。
“待つのも面倒だからこのまま帰ろうかな”
「ッ・・・」
「ちょっと愛海、本当にどうしたの? 大丈夫?」
聞こえてくる心の声が本物なのか偽者なのか未だによく分かっていない。 ただ大好きな思佑からのその声は愛海の感情をどん底に落とすには十分過ぎる力を持っていた。
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