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顔を染めながら慌てて振り返るもやはり近くに思佑の姿はなかった。
「・・・え、やっぱり今日もなの!?」
そもそもその声は耳から届く通常の声とは明らかに違った。 これが初めての経験ならもっと驚いていたのかもしれない。
“寝癖がある状態を見せてくれるのもきっと心を許している俺だからかな”
「いや、合っているけど直接言われると恥ずかしいって!!」
訳も分からず首を横に振る。 パニック状態になっているのにもかかわらず思佑の声は響き続けた。
“ただの幼馴染である俺といつもみたいに出かけるっていうだけなのにお洒落をしてくれるとか天使かな? 今日はどんな髪型にしてくれるんだろう”
それを聞いて愛海は更に顔が真っ赤になった。
「やっぱり私、思佑くんが好き過ぎていつの間にか幻聴まで聞こえるようになっちゃったんだ・・・ッ!!」
恥ずかしくなりその場にしゃがみ込んで自分の頭を叩く。
―――もう、私ったら馬鹿ちんッ!!
―――全て自分がいいように解釈しちゃって・・・ッ!
―――目を覚ませ、目を覚ませ!!
この現象は昨夜から続いていた。 だから昨日の夜はまともに眠りにつくことができず、やっとのことで寝つけたのは夜も更け切った後。 それ故に盛大に朝寝坊してしまったのだ。
―――昨日の夜からもうどうしちゃったのよ・・・。
―――・・・え、昨日の夜・・・?
その時、何故か昨日のことが思い出される。
始まりはクラスの友人から届いた一通のメッセージ。
『愛海! 今何してる?』
明日のデート服を選んでいるとスマートフォンに通知が届いた。 正直、デート服の方が重要だったがもしかしたら思佑からかもしれないと思いメッセージアプリを起動する。
『もうすぐ流星群が流れるんだって! 愛海も見ようよ!!』
『えぇ? 私は今忙しいからいいよ。 流星群よりも明日のデートの方が大事だし!』
『折角の流れ星なんだよ? 何か思佑くんのことで願ってみたらどう?』
『願ってみたら、って・・・』
占いやおまじないなどが好きな愛海は“願い事”というワードを見て準備する手を止めてしまった。
ただ流星群に願い事をしたいというだけでなく、今思佑にメッセージを送れば同じ夜を同じ夜空を見て過ごせるかもしれないと思ったからだ。
ということで、思佑にも流星群についてメッセージを送っておいた。
『・・・まぁ、折角なら・・・』
『そうこなくっちゃ!』
スマートフォンを置いてベランダへ出る。 愛海は空を見上げた。 どうやらまだ流星群とやらは来ていないらしい。
―――思佑くんのことで何を願う?
―――そりゃあもちろん・・・。
空を見つめているとたくさんの流れ星が横切った。 流星は夜空を埋め尽くし、確かにこれは見に出る価値のあるものだと思った。 流れ星の流れている間に三度願えば願いが叶う。
そんな普通なら難しいことも些細なことに感じてしまう程。
【思佑くんが私のことが好きかどうか分かりますように!!】
自分でも何故そんな風に願ったのかと後から思った。 ただ直接的に願うのは、たとえ叶ったとしても何となく後悔するような気がしたのだ。
そして現在。 昨夜の出来事を思い出し急に心がざわめき出した。
―――えぇ、もしかしてあの願いが叶っちゃった!?
まさか本当に、と思うが実際に思佑の声が聞こえているのは確かなのだ。
―――この聞こえてくるのが本当に今思佑くんが思っていることだったらどうする・・・?
―――ずっと余裕そうにニコニコしているだけなのに、心の中では私のことをそんな風に思っていたの?
期待している自分がいる。 愛海の部屋で待っているだろう思佑を想像した。
―――明らかに思佑くんのその声は直接聞こえてきているわけじゃない・・・。
ただ妄想というにはハッキリと音として認識でき過ぎている。
「この声が本物なら思佑くん私のことめっちゃ好きじゃない!? いや、それこそただの自意識過剰かもしれないけど!!」
自分の頬を叩いた。 痛さで少しだけ冷静になり現実を見つめる。
―――・・・でもやっぱりただの幻聴だったのかな。
―――もう思佑くんの声が聞こえなくなっちゃった。
そう思っても先程まで聞こえていた思佑の声を忘れることはできない。
「あの届いてきた言葉が本当ならもしかしたら相思相愛かもしれない・・・」
―――でもこれが幻聴だったらただただ恥ずかしい。
―――それに本当に勘違いでこの関係が崩れるのも嫌だ。
愛海はゆっくりと顔を上げ鏡を見つめた。
「・・・少しでも積極的に行動して匂わせてみたら私に告白してくれるかな?」
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