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愛海にとって深刻な心の声は精神をどん底へ落としたが、いつまでも落ち込んでいるばかりではいられない。 次の声が聞こえれば、そう思って聞き耳を立ててみても何も聞こえはしない。
ただ時間が経つにつれ不安から心臓の音ばかりが大きくなっていく。
「思佑、くん・・・?」
「愛海、どうしたの!?」
買い物を終えた愛海も思佑を探すため走り出した。 不安から出た咄嗟の行動だが美恋は心配して付いてきてくれる。 建物の中で走るのは危ないとかそういったことに気を遣ってはいられない。
とはいえ、思佑に会ってどうしたいかと聞かれればそうとも答えられない。
「愛海!!」
「え・・・」
ただ不思議なことに思佑も自分のことを息を切らして探していた様子だった。
―――ど、どうしてそんなに慌ててるの・・・?
今の愛海にとっては急いで自分に不満をぶつけようとしていたのではないかと勘繰ってしまう。 それでも思佑に呼び止められれば足が止まる。 近付いてくる思佑の表情はどこか暗かった。
―――・・・やっぱりさっき心の声で言っていたようにもう私のことなんて嫌いになったのかな。
愛海も思わず視線を落とす。 同時に美恋と思佑を追いかけていた睦秋も到着したようだ。
「・・・あー、愛海! 買い物に付き合ってくれてありがとうね! 思佑くんも時間をくれてありがとう!」
「ふ、二人共仲よく過ごすんだぞ!!」
美恋と睦秋は愛海と思佑の様子がどこかおかしいことを悟ったようだ。 これ以上は首を突っ込まないようになのか二人は去っていく。 愛海たちの間に沈黙が訪れた。
―――・・・謝った方がいいよね。
何となく気まずい雰囲気。 それを打破しようと勇気を振り絞った。
「あの・・・」
謝ろうとした瞬間急に思佑は愛海の腕を掴んできた。
「わッ、え、何!?」
「あ、ごめん」
驚きの声を上げると咄嗟に腕を引っ込めた思佑。 だが改めてもう一度ゆっくりと手を握ってきた。
―――・・・どうしたの、突然?
―――何か様子がおかしい・・・?
思佑は何か葛藤しているのか大きく首を横に振ると愛海の隣へ来て握っていた手を腰辺りへと移動させた。
「とりあえず移動しようか」
「えぇ、ちょッ!?」
今までにはなかった行動に驚いてしまう。 普段ボディタッチが全くないというわけではないが、外出先では考えられなかったことだ。
―――え、何、どういうこと・・・!?
流石に好きである思佑だとしても人に見られている場所で突然身体を触られるのには抵抗を感じてしまった。 現状先程の心の声で気分が沈んでいたことも災いした。
―――・・・こんなの、嫌だ。
もしかしたら普段なら積極的な姿勢を嬉しいと感じたのかもしれない。 だが今愛海の内に芽生えた感情は明らかな嫌悪感だった。
「ま、待って!!」
「どうしたの? ほら行こうよ」
思佑の手を払うと今度は肩に腕を回してきた。 まるで何かに取り憑かれたような様子にそれも振り払う。
―――思佑くん、やっぱり何かおかしいよ!!
「思佑くん、待って! 渡したいものがあるの!!」
「渡したいもの?」
これ以上触れられないように立ち止まって話題を変えた。 どこか様子のおかしい思佑の気を紛らわそうと先程買ったお揃いのブレスレットを取り出し見せた。
「それ、もしかして・・・」
期待するような目で見つめられる。 ドキドキしながら一つは自分に付け、もう一つを思佑の腕に付けようとした。
「え!? ちょ、ちょっと待った!!」
「何?」
思佑は付けようとした愛海のことを制した。
「どうしてピンク!?」
「だってお揃いなのはこの色しかなかったんだもん!」
「お揃いは嬉しいけど流石にハートだらけでピンクはちょっと・・・」
「でも思佑くんなら絶対に似合うから! 付けてみて!!」
付けようとすると押し返される。
「流石にこんなに可愛らしいのは付けるのが恥ずかしいよ! だったら色違いで合いそうなものをこれから一緒に買いに行こう? ほら!」
「何? 私が買ったブレスレットが気に入らないって言うの!?」
「そんなことは言ってないって!」
「もう色違いは探してもなかったの! って、待って!!」
強引にブレスレットを付けたがる愛海と、強引に愛海の腰に手をやって移動させようとする思佑。 それが運悪く引っ張り合いになってしまい愛海が買ってきたブレスレットは千切れてしまった。
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