35人が本棚に入れています
本棚に追加
思佑はその瞬間自分の顔が引きつったことを感じた。 ハートや金平糖のような形の飾りが弾けてバラバラに散らばっている。
買ったばかりのプレゼントがこのようなことになってしまい愛海はどう思っているのだろうか。 いや、そのようなことを考える必要もない。
「え・・・」
愛海の表情がスッと消えていく。 思佑も嫌な汗が流れ落ちた。
「酷い・・・ッ! 嫌だからってここまでしなくてもいいじゃん!!」
「ごめん、壊すつもりはなかったんだ!」
「どうして引き千切ってまで嫌がるの!? 私とのお揃いがそんなに嫌だった!?」
「お揃いを身に付けること自体は嫌じゃないよ! でも愛海が強引に付けさせようとするからこうなったんじゃ」
「思佑くんがいきなり身体を触ってくるからじゃない!!」
「どうしてそれに繋がるんだよ!」
「私はただ思佑くんとお揃いのものを身に付けたかったの!!」
「だからお揃いのものは嬉しいよ? でも男がそれを身に付けたら、っていうのは考えてくれたの?」
「ッ・・・」
地面に落ちているピンク色のブレスレットの残骸へ視線を落とす。 まだいくらか飾りが残っているが修復はできそうにない。 ただ改めて見ても思佑はそれを付けたいとは思えなかった。
愛海も思佑の言葉を聞き一瞬揺らぎを見せた。 だが怒りが収まるわけではなかった。
「・・・わ、私が選んで買ったものがそんなにも不満なの!?」
「不満、っていうわけじゃないけど・・・」
「それに私が怒っているのは今だけじゃない! さっきまで思佑くんは私に冷たかったのに急に強引になっちゃって! 冷たくされている間どれだけ私が不安だったのか思佑くんは分かるの!?」
―――な、何だよそれ、何のことだよ!
いきなり心当たりのない不満をぶつけられ思佑の感情も沸点に達してしまった。
「な、ならこっちも言わせてもらうけどさ! 今日の愛海は少し攻撃的だよ!! 俺がどれだけ対応に困っていたのか愛海に分かる!?」
「な、何よそれ!」
「こっちの気も知らないでグイグイ来るし、何があったのかと思えば急にツンとなるし! 俺の感情をどれだけ揺さぶれば気が済むんだ!!」
そう言うと愛海は口を噤んだ。
「・・・もういい。 思佑くんなんて知らない!!」
愛海はブレスレットをそのままにこの場を離れていった。 徐々に離れていく愛海の背中を見つめるも追いかけるようなことはしなかった。
―――・・・何なんだよ、もう。
―――こんなことになるなんて思ってもみなかった・・・。
我に返ると大声を出して言い合っていたせいか周りの人が注目していた。
「お、お見苦しいところを見せてしまってすみません・・・」
小声で謝罪の言葉を入れ頭を下げる。 地面に散らばったブレスレットを必死に拾い集めた。
修復は不可能かと思ったが、千切れた鎖部分は繋ぎ合わせることができそうなため手間さえかければ何とかなりそうだ。 回収を終えポケットティッシュに包む。
「彼女が可哀想でしょ。 プレゼントしたものを引き千切られるなんて」
「いや、彼女も彼女だろ。 流石に男であれだけピンク色のものを身に付けるのはキツいって」
傍から見ればどっちもどっちの言い合いだったのだろう。 そのような声が聞こえる中思佑もこの場を離れていった。 今は近くにいない愛海の心の声が聞こえないかと集中するも何も聞こえてはこない。
―――・・・駄目だ、ついに愛海の声が聞こえなくなった。
―――やっぱり俺のことなんて嫌いになったのかな。
―――今朝まではあんなにいい関係でいたのに。
―――・・・だけど今日の俺はらしくなかった。
―――それは自分でも分かる。
―――いつもなら愛海の前でも平常心でいられるのに今日は感情の起伏が激しい。
―――そうなったのは愛海の声が聞こえるようになってからだ。
―――最初は相思相愛なのかと思って喜んでいたけどそれが逆に自分を苦しめていた。
―――まさかここまで大事になるなんて・・・。
―――思えばゲーセンでも怒ったことがあったな。
占いのことを思い出した。 確かに結果は悪かったが、普段ならあそこまで怒ったりはしない。 精々不満の一つを口にする程度だろう。
―――今日占ってもらったもので『相性は最悪』とか言っていたっけ。
―――まさにその通りなのかも。
―――だけどそんなことは関係ないくらいに俺は・・・。
今日は失敗ばかりだがやはり改めて考えてみても愛海のことが好きだと実感した。 なら今やるべきことは一つしかない。
最初のコメントを投稿しよう!