花弁の舞うその先へ

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 まだ気温の低い朝方。暦の上では春だ。春の彼岸も過ぎ、ようやく寒さも終わりかと思っていたが、京都の朝はまだ寒い。  この気温ではまだ自転車に乗る分には手袋とマフラーは必要だ。でも漕いでいるうちに熱くなってくるかもしれないから上着は、真冬の時よりも少し薄めのジャンパーを羽織る。右手首にはピンク色と藍色の石で作られたブレスレット。肩から提げたスポーティなバッグの奥には少し古ぼけてきた革で作られたタロット用のカードケース。  これで準備は完了。  自転車に跨り、いざ出かけようとした瞬間、道路の脇に茶色い毛玉があることに気が付く。  自転車を一度脇に止めて、近づいてみる。一匹の猫が蹲っている。 「どうしたん、君」  思わず猫に話しかけてしまった。焦って周囲に誰もいないことを確認する。  にゃーん。  誰かいたら恥ずかしいと思いつつ、期待していなかった返事が目の前の相手から返ってきた。  目の前まで近づきしゃがみこむ。手を伸ばせば普通に触れてしまう距離。  それでも猫に逃げる気配はない。猫はこちらの様子を窺っているようだが、警戒している素振りはない。どこかまったりしたような表情をしている。  とても人に馴れた猫だ。体格はそんなに大きくなく、まだ子どもだろうか。  どこかの飼い猫なのかな。でも首輪やそういった類のものをしているようには見えない。  とりあえず手を伸ばし、頭に触れてみる。  逃げるかと思ったが、なんと猫は触らせてくれた。ゆっくりと優しく撫でる。柔らかくて暖かい。  猫は警戒の様子を見せず、目を閉じながらゆったりと撫でられている。  大丈夫か、この子。  初めて会う人間に対して全く警戒心を見せていない。触らせてくれたのは嬉しいけど、逆にその分心配にもなる。  さわさわと撫でながら観察する。  茶色の毛並みに、ところどころ濃い茶色。所謂キジトラというやつか。目の色は緑。それに加えて下半身と上半身の一部は真っ白い毛になっている。  さらによく見れば虎模様がはっきり出ていて、本当に小さな虎のような見た目だ。そしてなにより毛並みが良く、艶がある。 「君はどこかの子なん?」  撫で方を変え、頭のてっぺんを指先でかく。  にゃ?  返事は返ってくるが、意図はわからない。  あまり考えることをやめた。
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