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「なに、割っちゃったん?」
「経年劣化ですよ」
マグカップの経年劣化ってなんや……と純恋さんがぼそっと呟いたのが聞こえた。
「あるよ、マグカップ」
「ほんとですか?」
「うん、最近入ったやつもある。あれは良いよ、特別可愛い」
「そんなにですか」
純恋さんが腕を組んで自慢げな仕草を取る。
「ちょっとだけ飲み物待ってもらっていい? 今いくつかカップ取ってくるし」
「ありがとうございます」
「はーい」
私と蛍子は純恋さんが奥へと移動するのを見送る。
「で、なんでシャーペンとカップ壊したん?」
携帯電話を触っていた蛍子がずっと思っていたであろう疑問をぶつけてきた。
「いや、勉強しようと思ってシャーペンを持ち上げたらペン先が折れて、マグカップは手に取ったら取っ手が外れた」
「……あんたそんな握力強かったっけ」
「握力で折ったわけちゃうって! どっちも持っただけなんよ!」
「……ほんとかぁ?」
蛍子がわざとらしく疑う。
「ほんと! ただ単に運が悪かっただけ!!」
「はい、お待たせ~……ってどうしたん、紅莉ちゃん、大声出して」
奥から段ボール箱を持って純恋が戻ってくる。
「紅莉がとんだ怪力の持ち主やったって話ですよ」
「ちゃうって!!」
蛍子が茶化して話すのに、すかさずツッコむ。
「なんの話かわからんけど、とりあえずマグカップ持ってきたよ」
目の前に置かれた段ボール箱を覗き込む。中には三つの紙の箱が入っていた。
純恋さんは好きに中身開けて~と言いつつ、飲み物を作る作業に戻る。
段ボールの中の手前にある薄い群青色の箱を手に取る。蛍子はその隣にあった薄緑色の箱を手に取る。
箱の中には、箱の色よりも濃い群青色をしたマグカップが入っていた。特に柄はなく、外側は群青色、内側は少し薄まった白っぽい群青色で、シンプルな形状のマグカップ。綺麗な色合いだ。
蛍子が手に取った箱からは、同じ形状で若竹色の色違いのマグカップが出てきた。こっちも綺麗な色だ。
蛍子はマグカップを手に取ってじーっと見つめている。
「あ、それは前からここに置いてるカップやね。綺麗な色でしょ」
見覚えがあったのは、ここで見ていたからか。
マグカップをキラキラとした目で見まわしている蛍子を置いて、もう一つの箱に手を伸ばす。
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