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他の二つの箱よりも少し高さが低く、横に長い形状で今までのものとは少し違った印象が箱から伝わる。
「それはね、私の知り合いが作ったやつなんよ。たぶん紅莉ちゃんそういうの好きやと思うな」
カウンターの向こう側からコーヒーの良い香りがしてくる。
純恋さんがカフェオレの準備をしている。
箱を手に取り、ふたを開ける。ふたを開けて中を見ると、他の二つよりかは少し柄がついて突起のようなものがついてるように見えた。箱から中身を取り出し、クッションの役割をしているスポンジを外し、カップ本体が露わになる。
「わあ、可愛い! めっちゃ可愛いですよ、純恋さん!」
カウンターの向こうからあははと純恋さんの笑い声が聞こえる。
取り出したカップは猫をモチーフにしたものだった。形状は全体的に猫の身体のように丸く、正面には猫の顔が描かれ、カップの縁に猫の耳の突起がついている。後ろ側の持ち手は尻尾になっていて、カップが一匹の猫を表現していた。そしてこの猫はトラ柄だった。
今朝会った虎猫みたいにはっきりとしたトラ柄が尻尾まで続き、驚くことに下半身側が白く、まさに小虎のようだった。
カップをぐるぐるとじっくりと見まわす。デフォルメチックなデザインのようで意外と造形が細かい。
「それね、知り合いが作ったからうちの店に置いてほしいって持ってきてね。味のある可愛さよね。はい、カフェオレとココア」
純恋さんがそれぞれの前に器から湯気の上がるカップを置く。
一度猫のマグカップを置いて、熱々のカフェオレに口をつける。まろやかな苦みが丁度よくホッとする。
「そんなに気に入ったんならそのカップあげるよ」
「え、なんで」
「それ不良品なんやって。ほらカップの後ろの方、途中から色剥げてるやろ?」
猫の下半身から尻尾にかけて色がついておらず、もともとの白い部分が見えている。
「印刷の関係で、たまに上手く色がつかないのが出てくるんやって。だから売り物にならんらしくて見本で一個くれたんよ」
「……でも見本は必要じゃありません?」
貰えるのなら貰いたいが、ただで貰ってしまうのは流石に申し訳ない。
「見本はまた貰えると思うからあんま気にせんといて。それでも気にするなら代金の代わりにまた占ってよ、いつでもええし。紅莉ちゃんの占い当たるんよねぇ」
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