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純恋さんの少し棘の付いた発言にムッとしながら、最後の一枚のクッキーを口に含む。もうなくなってしまったのが残念なくらいだ。
「事実やん。紅莉はいつもなんかしらの理由つけて遅れてくるんですよ」
「それはあかんよ、紅莉ちゃん」
「いや申し訳ないとは思ってるけど、困ってる人いたら助けたいやん」
「ほんとお人好しやね、紅莉は」
それが私のポリシーというか、憧れだもの。
私は昔そうしてもらった。その時の後ろ姿が目に焼き付いて離れない。たとえ朧気になってもその背中を追いかけている。
だからといって約束を守らずに遅れていくのがいいとは思っていない。なるべくちゃんと守れるなら守りたい。一応そうは思っているのだ。
「で、助けた人はどんな人やったん? 結局さっき聞きそびれたし」
「眼鏡かけたすんごい綺麗な黒髪のお姉さんを道案内して、すんごい綺麗な茶髪で日焼けたギャルのお姉さんと合流した」
「……あんたその言い方、変な誤解を招くで……」
じとっとした目で蛍子が私を見つめてくる。
「いや、そういうあれやないから! 困ってるのがそういう人やったってだけ!!」
「ほんとかあ、それ?」
にやぁと笑って蛍子は私を見る。絶対信じてない。
「……でも黒髪の人はどっかで会ったことがあるような気がするんよなあ」
思い出そうとするが、欠片も思い出せない。というかあの人のような知り合いはいない。
たぶん今思い出せないってことは思い出さなくてもいいことなのだろう。
「紅莉ちゃん、それナンパの手口っぽいで」
「だからちゃうんですよ! 桜の木の下で困ってそうやったから声掛けたら道に迷ってて、行先が一緒やったから案内しただけ!」
「桜の木の下かあ。紅莉も青春してんなあ」
また蛍子がにやにやと茶化してくる。その仕草に腹が立ってむすっと剝れて見せる。
「まあまあ。でも良い出会いやったんやない? 紅莉ちゃんが人助けをする人やなかったら会わなかったわけやねんから。私やったら気にも留めんわけやし。これもご縁やねえ」
「一度会っただけなのが縁なんですかねぇ」
蛍子がココアに口をつけながらぼそっと呟く。
「大事なご縁よ。そもそもカップとペン壊さんかったら、きっとその縁はなかったわけやしね。どこかできっと繋がってるよ」
「また会えたりしますかね……?」
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