花弁の舞うその先へ

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 視界の端で楽しそうな景色を見ながら橋を渡り切り、赤信号に差し掛かる。自転車から降り、通ってきた橋の方を振り返る。  桜の花弁が風でまた舞い上がる。 「綺麗……」  その景色があまりに綺麗で思わず立ち止まってしまった。  太陽の優しい日差しと、春の少しだけ冷たい風、そしてピンク色の花吹雪。どれも心地良い。  しばらくボーっと眺めてから、信号が青に変わったことを確認し自転車を押して歩き出す。  綺麗な景色を見ると、気分が良くなる。 だが蛍子が待っている。あまりずっとは見ていられない。早く行こう。  横断歩道を歩いていると、横断歩道の向こう側に同じように景色を眺める女の人がいた。  黒髪を腰上まで伸ばし、暖かそうなコートに身を包んだ眼鏡をかけた綺麗な女の人が賀茂川の方を見つめている。  同い年ぐらいか、もうちょい年上なのかなあ。  見た目からしか判断することはできないが、高校生か大学生ぐらいだろうか。  女の人は目を細めて、桜吹雪を少し切なそうに眺めている。  あの景色は、見る人によって思うことは違うだろう。私がただ綺麗だと思うように、もっといろんな想いを持つ人がいてもおかしくない。この人も過去に何かあったのだろうか。  あまりジロジロ見るのはよくないと思いつつも、なぜか見てしまう。  華奢な体格に、そこまで高くない身長、手には大事そうに握る携帯、そして切なそうというか不安そうな表情。それから、なにかを探すようにきょろきょろと周りを見る仕草。  ……どこかで見たことあるような……?  自転車を押して横断歩道を渡り切る。女の人を通り越して、しばらく。 「…………ん?」  通りすがって数秒立ち止まる。もしかして。  思考が切り替わり、行動に移す。振り返って彼女のもとに走る。  なにか確信があったわけじゃない。ただ、なんとなくだった。なんとなくそう思ってしまった。 「あの」  黒髪の女の人に声をかける。女の人はふいに声をかけられて肩をびくっと震わす。  女の人は恐る恐る声の方へと振り返る。その表情は特別不安そうな表情で、それはたぶん声をかけられたことに対してではないと思う。  こういうときの私の直感は当たる。 「もしかして、なにか困ってます?」  気づいた瞬間頭の中によぎった言葉を口に出す  一瞬の間。
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