花弁の舞うその先へ

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 黒髪の女の人はそう言って、私のことを手で示す。 「あ、いや、すぐそこだったんで……」  案内と呼べるものは一つもしていない。すぐそこまで一緒に歩いただけだ。  口にしようとすると、茶髪の女の人が先に深々と頭を下げた。 「ありがとう。本当に助かったわ」  そこまでのことは本当に何もしていない。 「いえ、本当にすぐそこだったので! お友達と会えてよかったです」 「…………貴方……」  茶髪の女の人が頭を上げた後、しばらくこちらを見つめてくる。  なんだろう。そんなに見つめられるようなことをしたのだろうか。 「……では私、駐輪場あっちなので」  この空気を気まずく感じ、無理やり話を切り上げる。  軽く礼をして、自転車を押して歩き出そうとする。 「あ、あ、ありがとうございました」  黒髪の女の人もこちらに頭を下げるので、もう一度軽く会釈してその場を離れた。 「面白い人たちやったなあ」  一瞬しか関わることはできなかったが、二人の会話とその雰囲気は仲の良さがとても伝わった。  黒髪の女の人のあの不安そうな雰囲気が、一瞬で暖かくて柔らかいものに変わったようなのが見てわかった。  それだけ仲が良いんだろう。 「さあ、私もホタルちゃんを待たせてる。はよ行かな」  駐輪場を目指して小走りで進む。 「遅い!」 「すまぬ……」  目の前で一人の女の子が物凄く怒っている。…というわけでなく、呆れたように少し怒っている。  色白で細身で小柄な女の子、千賀蛍子(せんがけいこ)だ。  私は全力で手を合わせて頭を下げる。 「まあいいや、また人助けしてたん? 言い訳は歩きながら聞くわ」  蛍子は小さくため息を吐いてから歩き出すので、私もそれに続いて歩き、横に並ぶ。 「何買うんやっけ?」  蛍子が今回の目的を尋ねてくる。 「シャーペンとマグカップ。そんで後でマンジュリカに寄りたい」 「あんた、あの雑貨屋好きね。私も嫌いやないけど。じゃあ、その前に本屋も寄りたい」 「そうしましょう」    †    「無事買えたん?」 「うん、買ったよ、ほら」  本屋の前で、蛍子に買ったものを見せる。薄ピンク色と水色のカラーリングのシャープペンシル。 「あれ、私がオススメしたん買わんかったん?」
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