花弁の舞うその先へ

9/15
前へ
/15ページ
次へ
 髪を後ろで丸く括り、その上からバンダナを巻いた、エプロン姿の女性がカウンターの奥から声をかけてくる。 「こんにちは、純恋(すみれ)さん」  純恋さん。このマンジュリカを経営している奥さん。私の占いの先生の友達で、先生からこの店も教えてもらった。最初に訪れたときから、店の雰囲気が好きでずっと通い続けている。 「今日は蛍子ちゃんも一緒ね」 「あ、こんにちは……」  後ろからおずおずと蛍子が入ってくる。 「今日は何にする?」  純恋さんが飲み物を尋ねてくる。 「今日はカフェオレにします」 「私はココアで」 「はいはい、じゃあ席で待っててね」  各々飲み物を注文していつものカウンターの席に着く。 「ここはいつも静かでええなあ」  カウンターに座って落ち着く。 「それはいつもこの店に客がいないってこと?」 「そこまで言ってないですよ」  純恋さんがカウンターの向こう側で飲み物の準備をしながら剥れている。 「一応お昼とか結構人来るんよ。土日もそこそこ人来るし」  果たしてカフェを経営している側が、そこそことか結構で誇っていいのだろうか。 「知ってますよ。この前お昼に来たら人多すぎて入れませんでしたもん」  前に来たときは店の前まで人が並んでて、中に入るのを躊躇ってそのまま帰ってしまった。 「ああ、あのときかな……言ってくれたら入れてあげたのに」 「まああのときは用事もあって、すぐ帰っちゃいました」  周囲をくるくると見まわして店内を見る。  あのときのことを思い出すと、この店内のどこにあんなに人がいたのだろうか。  カウンターに寝そべってだらけながら考えてみる。……何も頭が回らんや。 「ねえ、紅莉」  だらけていると横に座っている蛍子が話しかけてきた。 「なにぃ?」 「いや、だらけすぎ……というかここ、あるんじゃない? マグカップ」 「あ、そっか」  今日の本来の目的を思い出す。 「純恋さん、マグカップってあります?」 「え、あるけど。マグカップで飲みたい?」 「あ、そうやなくて、売り物です。新しいの探してるんですよ」  マンジュリカはカフェであり、雑貨屋である。むしろ雑貨がメインである。ここならマグカップの一つや二つはあるだろう。  私の気になるものがあるかはまだわからないけど。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加