1人が本棚に入れています
本棚に追加
髪を後ろで丸く括り、その上からバンダナを巻いた、エプロン姿の女性がカウンターの奥から声をかけてくる。
「こんにちは、純恋さん」
純恋さん。このマンジュリカを経営している奥さん。私の占いの先生の友達で、先生からこの店も教えてもらった。最初に訪れたときから、店の雰囲気が好きでずっと通い続けている。
「今日は蛍子ちゃんも一緒ね」
「あ、こんにちは……」
後ろからおずおずと蛍子が入ってくる。
「今日は何にする?」
純恋さんが飲み物を尋ねてくる。
「今日はカフェオレにします」
「私はココアで」
「はいはい、じゃあ席で待っててね」
各々飲み物を注文していつものカウンターの席に着く。
「ここはいつも静かでええなあ」
カウンターに座って落ち着く。
「それはいつもこの店に客がいないってこと?」
「そこまで言ってないですよ」
純恋さんがカウンターの向こう側で飲み物の準備をしながら剥れている。
「一応お昼とか結構人来るんよ。土日もそこそこ人来るし」
果たしてカフェを経営している側が、そこそことか結構で誇っていいのだろうか。
「知ってますよ。この前お昼に来たら人多すぎて入れませんでしたもん」
前に来たときは店の前まで人が並んでて、中に入るのを躊躇ってそのまま帰ってしまった。
「ああ、あのときかな……言ってくれたら入れてあげたのに」
「まああのときは用事もあって、すぐ帰っちゃいました」
周囲をくるくると見まわして店内を見る。
あのときのことを思い出すと、この店内のどこにあんなに人がいたのだろうか。
カウンターに寝そべってだらけながら考えてみる。……何も頭が回らんや。
「ねえ、紅莉」
だらけていると横に座っている蛍子が話しかけてきた。
「なにぃ?」
「いや、だらけすぎ……というかここ、あるんじゃない? マグカップ」
「あ、そっか」
今日の本来の目的を思い出す。
「純恋さん、マグカップってあります?」
「え、あるけど。マグカップで飲みたい?」
「あ、そうやなくて、売り物です。新しいの探してるんですよ」
マンジュリカはカフェであり、雑貨屋である。むしろ雑貨がメインである。ここならマグカップの一つや二つはあるだろう。
私の気になるものがあるかはまだわからないけど。
最初のコメントを投稿しよう!