うちの天使

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「ケンちゃん何やってるの?!」 「んんん? マーがね、おこられたからね、ケンがね、ばつうけるの! 」 「そんなことしなくていいよ」 「だぁめ! やるの! 」 乱雑に剃ったケンタの頭は落武者みたいになっていた。逆に器用な気もするが、流石に今の時代落武者スタイルは尖りすぎなので、ミキコが後を担当する。ケンタの頭はまん丸の坊主になった。 「ケンちゃんはこうしたかったんだよね? 」 「そーう! 」 「……そっか」 ケンタは所謂、障害を持っている。成人こそしているが、内面は小さな子供と変わらない。喋る時は大きな声で喋り。動く時は大きな動作で動く。思い通りにいかないと癇癪を起こすことなどしょっちゅうだ。 「ザラザラー」 坊主頭を撫でながら発言するケンタ。顔と手と服と床は髪の毛まみれだ。 「ケンちゃん、お風呂入ろうか?」 「んえー、やだぁ」 「でも、髪の毛まみれだよ。そんなのいやでしょ? 」 「おふろもやーだー! 」 「ママも一緒に入るから、ね?」 「ん〜……」 ケンタは渋々お風呂場に向かった。脱いだ服に着いた髪の毛をミキコは外に出て払う。そうしてるうちにもケンタはミキコを呼ぶ。 「マー? マー? マー?! マー??!!」 「はーい今行くからね〜! ちょっと待っててね〜!」 地団駄を踏みながらお風呂場に立つケンタ。素っ裸な姿は成人男性そのものだが、顔は小さな子供のようにニヘラと笑う。 「マーあらってぇ」 「はいはい」 そうしてケンタにシャワーをかける。顔や頭についた毛が水と一緒に流れる。 「ラーラララー♪」 お風呂に入ると必ずケンタは歌う。入るまでお風呂は嫌いだのなんだのと騒ぐのに、入るとこのように上機嫌に歌を歌う。 「口に水が入っちゃうよ」 そう注意してもケンタは歌う。忠告通りケンタの口の中に水が入った。ケンタは少し咳き込んでからまた歌い続けた。以前、耳元であまりにも大きな声で歌うものだからやめてとミキコが言うと、ケンタは歌う代わりに暴れたのでそれ以来やめてと言うのをやめた。だが、その時以降あまり大きな声で歌うことはなくなった。  頭の次に顔を洗う。ケンタは顔を洗われてる時もなんとか歌おうとする。なるべく泡が口に入らないようにミキコも気をつける。その次に体、どうしてもケンタの体のあの部分が気になる。小さい頃から見てきたが、身体の成長とともにこの部分も大きく、毛深くなっていく。ミキコの手が触れるとそこは反応する。心が子供でもこれは生理現象なので起こる。だが正直、我が子のものとは言えあまり可愛いものだとは思えなくなっていた。この時ばかりは笑顔のケンタを気持ち悪く感じてしまう。その嫌悪感は、自分達を捨てて逃げたあの男の顔を想起させる所為でもあった。 (こんな思いになるのはアイツのせいだ。名前を思い出すのさえ嫌になるアイツのせいだ) 「マー痛い! 」 「ごめん、ごめん」 いつの間にか洗う手に力が籠っていた。申し訳なさそうに笑うミキコは、また心の中で悪態をついていた。
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