うちの天使

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身体を拭いている時もケンタは歌う。そういえば今日の夜はケンタの好きな歌番組がやるのだった。その番組を食い入るように見るケンタは歌い終わる歌手に必ず拍手を送り、自分もモノマネするように声を出す。その歌手がダンスをしながら歌うのならそのマネもする。それが原因で近隣の人からクレームが来たこともあるが、これを叱ろうにもケンタはやめることはない。障害という理由もあり、結局近隣の人の方が根負けし引っ越すなんてことがお決まりのコースだった。 (多分あのコバヤシもそう遠くないうちに引っ越すだろうな) いつしかミキコは根負けする人が分かるまでになっていた。  次の日、仲良しのイイダメグミさんとその息子の5歳になるトシ君と一緒に食事に行くことになっていた。ファミレスで服を汚しながらハンバーグを食べるケンタを横目にミキコはイイダさんと話す。 「それで? 売れっ子作家、ミキコ先生の最近の執筆事情はどうなの? 」 「もぅやめてよメグミちゃん。新しいのなんて全然浮かんでないんだから」 「えぇ、そうなのぅ。楽しみにしてるのに」 「まぁ頑張りますから、そのうち……」 ミキコは今、小説で食べている。というのもブログで始めたケンタに関するエッセイが思いの外世間に受けたことがあったのだ。それがキッカケで執筆活動が盛んになった。 (でもまぁ、あのヒットはマジで幸運なだけだったんだよなぁ) 各方面から湧いた読者コメントは、これまでのミキコの人生に同情するようなもので溢れていたのを覚えている。あのエッセイでの読者確保のおかげである程度その後の作品も読まれてはいるものの、ヒットとまではいかない。いつしか周りからは「障害者の息子のお陰で得た名声」「偶々ヒットしただけの一般人」などと言われることが多くなっていた。その声に反論する気持ちで作品を描いたが、結果がこうなので世間の声の方が正しいように思えてきた。メグミには頑張ると言ったが、新しいネタなど浮かんではいなかった。 そんなミキコの考え事は、ケンタの悲鳴で打ち消された。 「アッー!!! あづい! あづい!」 どうやら熱い鉄板を触ってしまったらしく、ケンタは大暴れし出した。持っていたフォークも投げ飛ばす。それがトシ君の頭部に当たり、ケンタとトシ君は大泣きし出した。ワンワン泣く2人に対し「早く静かにしろ」という周りの視線が刺さる。ミキコはメグミにも周りにも頭を何度も下げた。ケンタは更に大きく泣き続けていた。ミキコとメグミは小さくなりながら我が子と共にファミレスを後にした。
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