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外に出てからもミキコはメグミに謝罪を続けた。
「ミキコちゃん、そんなに頭下げないで。ケンタ君もビックリしたねぇ。大丈夫? 」
「んんー」
ケンタはグズリながら答える。トシ君はもう泣き止んでいた。だが、ケンタの泣く姿はその時だけではなかった。
「ええ? 夜ハンバーグ作るの? 」
「バンバーグがいい! 」
「さっき食べてたのもハンバーグだよ? 」
「バンバーグがいい! バンバーグがいい! 」
「お肉屋さん通り過ぎちゃったし」
「バンバーグがいい! バンバーグがいいのぉ! 」
そう言いながら路上で寝転び手足をバタつかせるケンタ。その姿を大勢が嘲笑の目で見る。遠目からこっちを見る高校生の集団は爆笑していた。「あんな風にはなりたくないな」という声も聞こえてきた。
「ねぇケンちゃん、そんなの恥ずかしいからやめよう」
「ケンタ恥ずかしくないもん、マーがバンバーグ言うまでやるぅ!」
途中心配して声をかけてくれた男性も居たが、「大丈夫ですから」の一言で遠ざけた。
「わかった! ハンバーグにするから、ね!」
「ん〜……」
そうしてようやく静かになった。流石にミキコも溜息を出したが、家に帰ってからも問題は出てきた。騒ぐケンタを捌きながら作ったハンバーグ、何口かケンタは食べるが
「このバンバーグやだぁ! さっきのがいい! 」
「えぇ……」
「マー行こう! バンバーグ食べ行こう! 」
「ねぇケンちゃん、今日はもういけないよ」
「なんで、なんで、なんでぇ!」
そうしてまたケンタは泣き出した。正直この癇癪は手に負えなかった。誰か手を貸して欲しかったが、すぐに思い浮かぶ顔はさっき気不味く別れたメグミと何処かに消えた男の顔だった。
(クソ、なんでアイツが出て来んのよ!)
「いこーよ! いこーよ! いこーよおぉ!」
アイツの顔とケンタの大声で頭がガンガンする。それに加えて、ケンタが壁をドンドン叩く。その数秒後、インターホンが鳴り響いた。隣にいるコバヤシだろうというのが分かったが、ケンタを抑えるので必死だった。こういう時に毎回気付くが、ケンタの力は成人男性とあまり変わらないのだ。ケンタの声、暴れる手足、インターホンの音で部屋がとんでもない騒音になりミキコはたまらず
「うるさぁぁぁぁぁい!!!!」
と声を上げていた。
それから数週間後、コバヤシは引っ越しの挨拶の為にまた部屋のインターホンを鳴らした。最後の挨拶だと思い愛想良くしようと心がけていたが、コバヤシから出てくる言葉は「静かにすることも出来ないなら施設に入れた方が周りのため」だの「貴方たちのせいでせっかく見つけた安い物件が台無しだの」挙げ句の果てには「あの子は何なら出来るの? 」と直接小言を言われた。ミキコは笑顔で「はい」や「そうですね」を繰り返し、心の中で
(このアパートが安い理由がようやくわかったかクソババァ、2度とそのツラ見せるな)
と毒づいていた。正直これは面と向かって毒づいた方が良かったなとミキコは少し後悔した。
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