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歌を歌うのは良い、ただゴスペル教室というのが引っかかった。そもそもケンタは小学校の時の合唱すら上手く出来ていなかった。そんな調子で大丈夫なのかミキコは不安になった。
数日後、カンダのゴスペル教室にお邪魔した。こじんまりとした部屋に大きなカンダと小さな電子ピアノがあった。カンダは笑顔で迎えてくれた。
「まずは僕が歌ってみるね」
そうしてカンダは一通りゴスペルの有名な歌を歌う。当然英語で歌うので、ケンタはもちろん、ミキコもその歌の意味はわからなかった。歌詞カードを見て、和訳を見て、やはり神様に対する感謝などを歌にしているものが多いのだなぁと知った。カンダの歌声は素人でも凄いと言わせるものを感じた。本場の海外の英語を聞くのと同等で、歌詞カードを見ないとこの人が何処を歌っているのかついていけないことが殆どだった。ミキコは歌に追いつくのに必死だったが、ケンタはカンダが歌い終わると必ず沢山の拍手を送った。
「ケンタもやりたい! 」
ケンタが笑顔でこう発言した。カンダが大きく頷くと、ゆっくりとメロディを奏でた。ケンタは歌詞の意味など深く理解してないだろうが、声を出した。「あうあう」という単語が似合うような発音だったがカンダがそれを補助するようにケンタの声を後押しした。
「ケンタ君すごいね」
「ふへへ」
「歌う時の1番の壁って、恥ずかしい気持ちなんですよ。ケンタ君にはそれがないから堂々と歌ってくれる。これ凄いことなんですよ」
ミキコに向けてカンダはそう説明すると
「実はこの後路上で歌うんだけど、一緒にどうかな? 」
「やるぅ」
「え」
ミキコの返答より先に、ケンタがそう答えた。カンダは笑顔で、「じゃあもう何回か練習しよう」と言うとケンタは後に続くように返事をした。
そして、あれよあれよと言う間に大通りでセッティングが完了していた。ミキコは正直不安だった。以前、カラオケにケンタと一緒に行ったことがあるが、流行りの歌を音程などメチャメチャな感じで歌ってたことをよく覚えている。大勢の前で歌うなどとても……。
そんな不安など気にも止めず、カンダはピアノを鳴らし、声を出す。まずは彼がその場を温めていった。大通りの人たちはその姿を遠めで見たり、足を止めたりして見ていた。歌の終わりには拍手が聞こえた。
「よし、ケンタ君! 一緒に歌おう! 」
「うん! 」
そうしてケンタはカンダの隣で先程まで練習した歌を歌い始めた。英語だから誤魔化せる部分もあるのだろうが、お世辞にもケンタの歌声は聴き心地の良いものではない。だが、先程カンダが言ってた通りケンタにそれを恥ずかしいと言う気持ちなどなかった。思いっきり大きな声で、体を揺らしながら歌っていた。
歌い終わると周りからは拍手が聞こえた。
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