33人が本棚に入れています
本棚に追加
決して上手な歌ではなかったと思う。現に、拍手はまばらだ。
だが、拍手を貰っているのだ。あのケンタが。
周りから嘲笑されていたケンタが。
コバヤシに「あの子は何なら出来るの? 」と言われたケンタが。
ミキコは拍手など忘れて、ただただ我が子を見つめていた。ミキコの表情は笑顔だが心の中に嫌味などなかった。
周りからのまばらな拍手の中、嬉しそうに飛び跳ねるケンタ。
涙を通してぼんやりと見えるあの子の姿がとても神秘的だった。
笑顔で駆け寄るケンタ。その笑顔はいつもミキコに向けている笑顔とは別物のように見えた。もしかしたらこの子も人に気を遣って笑顔を振り撒いていただけなのかもしれないとミキコは思った。そんな気遣いから解放されたような笑顔だった。我が子が見せる笑顔。その姿はまるで祝福を受けながら飛び回る天使のように見えて……。
(この子はこんなに凄いんだ、この子はこんなにも可愛いんだ。ねぇそこの人、もっと拍手して下さい。この子は障害にも負けずに立派に歌ったんです。大袈裟かもしれない、親バカかもしれない、
でもこのことをもっと多くの人に知ってほしい……そうだ!またこの子のことを描けば良いんだ。でも、今、今この場にいる人たちにもこのことを伝えたい)
ミキコは堪らず大きな声でこう言っていた。
「うちの子はできるんです!」
最初のコメントを投稿しよう!