3 戻らない旦那様

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 部屋へ戻ろうとした私を見て、お義母様が女中に命じた。 「私は泥棒なんてしません」 「泥棒でしょ。私からお兄様を奪った泥棒猫」  萌華さんは憎しみを込めた目で私を見る。 「どうして、私がお兄様以外の人と結婚しなくちゃいけないのよ! 冬雪が高野宮にこなければ、幸せでいられたのに!」  ――みんなが不幸になるのは私のせい。   私がいなかったら、旦那は萌華さんと結婚し、お義母様と対立することなく、平和に暮らせた。  両親は怨霊に殺され、引き取られた先の七々原(ななはら)家では厄介者。  私の存在は―― 「冬雪さん、こちらへ。荷造りをするのでしょう?」  固まっていた私に気づき、女中頭が近づくと、私の背中を軽く押して部屋のほうへ戻るよう促した。 「平気ですか? 真っ青ですよ」  黙ってうなずいた。  なにを優先して考えればいいかわからなくなっていた。  自分の価値、旦那様の行方、これからの生活――そして、壊された提灯の意味と火守り姫、異界。  私に説明してくれる人は誰もいなかった。  高野宮を去る私に許されるのは、黙って出ていくことだけ。  私が高野宮に家から持ち出しを許可されたのは、七々原家から持ってきた私物だけで、旦那様からいただいた着物も小物もすべて奪われた。  私の手元には、なにひとつ残らなかった。  胸元に隠した旦那様からの手紙を除いては――
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